読書日記

『江戸東京の明治維新』 読書日記205 

2023年05月29日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

横山百合子『江戸東京の明治維新』岩波新書

著者は国立歴史民俗博物館教授。日本近世史専攻。新書であるが、巻末にある文献解題が「先行研究」「江戸東京研究の資料(ママ)」「参考文献」「データベース」「引用史料」と充実していて学術論文に傾いている本であった。

内容紹介は
維新の激動に飲み込まれた江戸。諸大名の一斉帰国で人口は一挙に半減し、百万都市は瞬く間に衰退へと向かう。横行する浮浪士のテロ、流動化する土地と身分。人心は荒廃し怨嗟の声があふれる。江戸の秩序が解体してゆく東京で、人びとは時代の変化に食らいつき、生き延びる道を求めて必死にもがきつづけた。名も残らぬ小さき人々の明治維新史。

となっていて、章分けは以下の通り。
「第1章 江戸から東京へ」、「第2章 東京の旧幕臣たち」、「第3章 町中に生きる」、「第4章 遊廓の明治維新」、「第5章 屠場をめぐる人びと」

読んで驚いたことは、これまで漠然と江戸→東京の変遷がスムーズに進んだと思っていたことが誤解であって制度改革への新政府の試行錯誤とそれを成し遂げようとする覚悟の深さを知った。なにしろ、西郷隆盛と勝海舟の会談で江戸は確かに無血開城はしたものの、一方で上野の山に幕臣の不満分子が集まり、東北地方から北海道にかけては奥羽列藩同盟や後の函館戦争に繋がる動きがある中で、「江戸の治安維持」が「全国の治安維持に繋がる」としての動きを詳述している。

大政奉還後、(人口のおよそ半分を占めていた武士がそれそれの領国に戻った為)江戸の人口が急速に減った。その為、武家屋敷の価値が大幅に下がり、土地所有者が激しく入れ替わったという事実に驚く。

また、著者の研究のテーマは「明治維新と近世身分制の解体」であるらしく
1.従来の研究では「身分制は、平等に反する階級的なもので、新政府の開明官僚は、当初からこの廃止を志していた。」とされている。
2.1980年代以降の研究では「身分制は、特定の仕事集団が、何らかの公的役割(年貢等)を負担することで、仕事上の一定の独占権(耕地、作業場、流通等)を公認される仕組み。統治システムであるが、特権の保証でもある。」と変化。
3.著者等の研究では、当初明治新政府は身分制の解体までは考えておらず、多すぎる身分を武士公家、農工商、賎民の3区分ぐらいに整理するつもりであった。しかし、維新の混乱の中で土地と身分の流動化(武士の町民化、武家地の町民地化等)により、統治の基本たる戸籍編成等が困難となり、明治4年に身分制廃止の方向に大転換した。
としている。

著述の内容的には新政府の考え方などが第1章、旧幕臣についての混乱を第2章、一方の町方についての混乱を第3章で書いている。第4章では商品であった遊女の身体論、人権論に移るが具体的な例が一例しかなく、「明治維新以後、娼婦は社会的に蔑視される存在となった。」とするには無理があると思った。第5章は賎民身分(及び特権)の廃止と食肉産業変遷を書く。

私は明治初期における朝令暮改とも言える様々な制度変更を理解するのは困難であったが、その背景とも言える事情を知り得たのは大きな喜びであった。
(2023年5月16日読了)



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