花かるた

ないしょ話 

2023年05月17日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

新しく配属された職場には37〜8歳頃と思われる
綺麗な人がいた。清純そのものといった美しい女性。

彼女は私を見て、ニッコリして自己紹介をした。
親切で、優しく面倒見が良い彼女と、人怖じしない
20代新入りの私は、直ぐに仲良くなった。

そのうち仕事帰りには、どちらからともなく度々
食事に誘い合い、さらに親しくなっていった。
その日も「何か、食べて行こうよ」と誘われて
二つ返事で応じた私。

行ったのは、当時副都心の地下にあり、駅に直結した
イタリアンレストランのチェーン店だ。
広い店内は個々に区切られていて、隣席を気にせずに
長居できる点が、私たちのお気に入りの店だった。


私たちは、労働後の興奮と疲労感が、色濃く残った
状態で、先ずはキャンティワインで乾杯をする。
渇いた喉を潤して、胃袋をキュっと掴む紅い甘露。
急に空腹をおぼえる。

「お腹すいた〜」
「さてさて何を食べようか」

「先ずは、いつものメニューにする?」
「OK〜OK〜いつものアレを!」

「アレコレ、半分こずつ食べようね」
「ワインもう一杯、お願いします〜」こうして

飲み食べながら一頻り、性格の悪い同僚の悪口や
気が利かない社員の間抜ぶりなどをやり玉に挙げる
いつも通りの憂さ晴らしで、笑いが弾ける2人。


そのうち、どこから話の流れがそうなったのか?
美人先輩がしんみりと、告っていた。

「私ね、奥さんがいる人と一緒に暮らしてるの」
「そうなの?!・・・・・」

職場でも好感度の高い、先輩の意外な一言だった。

「その奥さんってね、私の姉なのよ」
「えっ?」「うそ〜!」

「本当よ。3歳違いで2人きりの姉妹だから」
「小さい頃からとても仲良しだった」

「今は姉に酷く憎まれてる」「両親にも勘当されて・・」
「悪い女なの、私って」「自分で、そう思うわ」

これまで義兄も含めて、父親や母親、肝心の姉とも
幾度となく話し合いを重ねては、その度に2人は
何回も分かれては付き、割かれてはまたを繰り返した。

とうとう最後に2人は家族や親戚からさえも絶縁された。
それから、身を寄せ合った2人だけの暮らしが
もう10年を越えるのだと言う。

薄暗い照明が、昼間には気づかなかった彼女の顔の
皺を幾つも浮かび上がらせ、急に老けた顔に見えた。
美しいと思っていた憂い顔には、こんな黒い秘密が
あったのだ。

燃えさかる業火で、焼かれ続ける先輩。
一般社会では禁忌な不義の行いと、忌み嫌われる。
行き場のない2人は、求めても求めても満たされず
貪欲に心は餓(かつ)えたことだろう。

「まあ・・そうねぇ」
「・・・成るようになるしかないわよね」

彼女の酷く、重い心の叫びが聞こえた気がして
黙ったままでは、いられなかった。

彼女は、ハッとした顔をした。そして
「貴女に話して良かったわ」
「そうね、どうしようも無いのよね」苦く笑った。


これを情念と言うのか。深い底なし沼で溺れながら
迷いを振り切って、先の道に進んで行った先輩は
その後の長い人生で、どんな景色を見たのだろう。

深夜にフッと、過ってきたこんな過去の1ページ。
あの時、哀しそうにも、幸せそうにも見えた彼女の
謎めいた顔が、闇に白く浮かんでスーっと消えた。




最後までお付き合いいただきましてお礼もうしあげます





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chimeraさんへ

月あかりさん

コメントをありがとうございます。

”火宅の世に生き延びる性”

最近押しの「LGBT」も真っ青
この世は「男と女」で圧勝ですね

2023/05/26 17:35:27

拍手のかわりです

chimeraさん

業火は
秘めやかに
身が滅びようと
心の癒し

故に
火宅の世に
囚われることなく
生き延びる
性とは摩訶不思議
ですね

2023/05/26 08:29:41

草庵さんへ

月あかりさん

若い頃ってよく女同士で、あっけらかんと恋バナを
しませんでしたか?。私は自分自身には大した経験が
ないのに、なぜか深い話を打ち明けられることが多かった
のですが、これは想定外でした。義兄と?そんなことが!!
あるんだなぁ〜と。

破壊しつくすような
こんな恐ろしい愛に出合わなくて、私たちは幸せでしたね。

私が壊すものなんて、せいぜいが(高級)急須止まり。
女と生まれてこの方、これも少し情けない気もしますが(^-^;

2023/05/19 22:54:50

般若

草庵さん

心の奥に潜む炎がメラメラと、消そうとしても種火として残りまた燃え盛る。
どうしてそうなっちゃうのか、きっと本人達にもわからないのでしょうね。

相手を求める気持ちは仮面夫婦よりは純粋かもしれませんが、今際の際に悔いなしと言えるかどうか…。

人生は複雑で、正解などありはしない。
これも人生、それも人生と思える今日この頃です^^;

2023/05/19 20:47:22

みさきさんへ

月あかりさん

人間の心の奥に有るもの、普段は気づくこともなくもしかして
そのまま人生を終える人も多いのかもしれません。

この2人の、マグマのように噴き出してきたものをかぶり
ご家族は、心に大火傷を負った事でしょう。
自分自身も火だるまになって。。2人で生きて行くための
決まり事を作ったそうです。生涯子供は作らないとか。。

いつか来し方を振り返った時に、何を思ったか?
聞いて見たい気がしました。今も生きているのかも含め
”遠い日の告白の真意”仰るように、永遠の謎です。

2023/05/19 11:09:45

謎めいて…

みさきさん

更新情報見逃がしまして、遅くなりました、m(_ _)m


何気ない日常のさりげないポケットから、何時の間にか心理の迷路に。 照らし出された風景は巧みにに誘導されます。さすが!

(゚゚;)エエッ、まさか…!!(絶句!)

そういう流れを味わう一方で、遠い日の彼女の告白が100%真実ともかぎらないのではないか、時の篩にかけられて、残るものは何なのだろうか…、等という余韻まで、楽しませていただきました。

お見事ですね。

2023/05/19 06:37:47

来音さんへ

月あかりさん

このナビトモには、本を出している人が
何人もいらっしゃいますよ。
私が出したら30冊はかたいですエヘン!
親戚に押し売りします(笑)

来音さんは作曲をされるのですね。
YouTubeで聴かせて頂いています。
いつか大ヒットするかもしれませんね。

2023/05/17 23:31:08

もう文庫本を!

来音さん

短編小説にして出しましょう!
文学は得意でないですが、これくらいの長さなら
ちょっとした時、読めますね!

是非! (^^♪

2023/05/17 23:05:44

onさんへ

月あかりさん

私は臆病者なので、この様な状況になったら
いや気配を感じた時点で、いくら好きでも
地の果てまで、逃げ去るでしょう。

この先輩の清純な見た目のどこに、こんな
強さが有るのか?女は強し?私は覚悟が足りませんね。

2023/05/17 22:04:51

不倫

onさん

好きな思いは抑えることができない。
それはいつの時代でも同じことだと思う。

いろんな確執の中で彼女は自分の思いを貫いたことはすばらしいと思わないではいられません。

2023/05/17 18:15:32

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