読書日記

『遠縁の女』 読書日記1339 

2023年02月19日 ナビトモブログ記事
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青山文平『遠縁の女』文春文庫

著者の作品数は全部で12冊と多くはないが、私の好きな作家の一人である。単行本で読んだのもあるが、文庫本が出るたびに買っている。未読の作品は本書と2019年の『跳ぶ男』と影山雄作名義の『俺たちの水晶宮』だけであった。

さて、本書には「機織る(ハタオル)武家」「沼尻新田」「遠縁の女」の3篇が収められている。

「機織る武家」は武井家の後添えである縫(ヌイ)の目で語られる物語である。縫は武井由人(ヨシト)と姑の久代との3人暮らしであるが、始めに由人は入り婿であり、と久代の間には地の繋がりがないと言うことが語られる。しかも武井家は昔はともかく今は二十俵二人扶持でしか無く、かろうじて足軽では無いという家柄、簡単に言えば貧乏武士である。しかも、それがさらに減知となってしまった。それで武井の親戚一同が集まり縫が賃機(問屋や機屋から織り賃を貰って反物を織る)をして家計を助けろという勧めがあるが、「賃機はしない」という久代のわがままで武井家は親戚から縁を切られる。

縫は家を出て暮らすしかないと思いを定めたところで久代から賃機をすることを依頼される。話はそれからよき問屋にも恵まれてトントン拍子に縫の腕が上がり名も知られていく。

「沼尻新田」は柴山和己の一人称で語られる。和己は家督を相続したばかりの頃に、隠居した父の柴山十郎から海に近い沼尻地区に新田開発の許可(ただし土地は砂地であった)が出るから開拓してみてはどうだという話が出る。柴山家は現在百石の知行地を持つ家だが、藩内には知行地借り上げの話がある。新規開発した土地は永年にわたり年貢が免除になるという。

その地へ下見に行った和己は海沿いのクロマツ林が何者かの手によって手入れされ続けていることを知る。その何者かは野方衆と言って藩がここに出来た時に、家臣の一部が荒れ地開拓を名目に、藩士から郷士とされ(藩の川〜すれば)口減らしの対象となった人たちである。彼らは艱難辛苦の末に開発を成功させたが、藩士や村人たちとも交わろうともせずひっそりと暮らしている。

そして和己はたまたま出会った野方衆の娘すみとその郎党佐平により、このクロマツ林は野方衆たちの土地の端付近にあり、彼女たちが手入れをする理由を知ることになる。和己とすみとはその日に話したきりであったが、すみは大きな影響を和己に与え、和己に新田開発を決意させることになる。

その後、開拓予定地すべての開拓を申し出て、親戚一同の援助も得て新田開発に成功した和己は開発した土地の領主となり、柴山一統中興の祖と呼ばれることになる。だが、和己には新田開発をし、領主となる理由には秘められた目的があり、それはクロマツ林をお留め林として守るためであった。

「遠縁の女」は剣と学問の二途のいずれをとるか悩んでいる23歳の片倉隆明に武者修行をしろと勧めたのは途士頭を務める父の片倉達三である。それが片倉家の為だと言う。修行期間は5年を目処にせよと父は言う。初めは2年と思っても剣の道に入れば時を忘れるとも言う。そして、話は隆明の武者修行の話が続く。ようやく6年目に入ろうとするころ、剣の道の分かれ目に来たかと自覚した隆明は突然の父の死によって修行を中断する。

帰ってみれば、藩は大変なことになっていて、その間に起こったことは誰も語りたがらない。ただ偏屈ものの叔父に話を聞いた隆明は5年も前に「帰りをお待ちしております。と挨拶をしてくれた遠縁の女に会いに行く。実はこの話の主題はその遠縁の女である。前半の武者修行は一体何の為だったのかというぐらいに話はひっくり返る。

3篇とも良く出来ている。著者の作品で未読のものの残るは(今のところ)あと1冊。それが文庫本になるのを待ちわびている。
(2020年6月14日読了)



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