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読書日記
『ポーカー・フェース』 <旧>読書日記1338
2023年02月17日
テーマ:<旧>読書日記
沢木耕太郎『ポーカー・フェース』講談社(図書館)
著者の『バーボン・ストリート』(1984年、第1回講談社エッセイ賞受賞作)、『チェーン・スモーキング』(1990年)に次ぐ、2011年発表のエッセイ集エッセイ集である。この本を読んだ理由はこのエッセイ集の中で山野井妙子と泰史に触れているらしいことが判ったからである。ということで、図書館の所蔵する図書を検索し、見つけてリクエストした。
本の用意が出来たという通知が来たので、借りて来てまず目次を見る。始めから順に
「男派と女派」「どこかでだれかが」「悟りの構造」「マリーとメアリー」「なりすます」「恐怖の報酬」「春にはならない」「ブーメランのように」「ゆびきりげんまん」「挽歌、ひとつ」「言葉もあだに」「アンラッキー・ブルース」「沖ゆく船を見送って」あとがき、と並んでいる。
で、どれが山野井夫妻に触れたものであろうか、と推測してみる。目次を一瞥しただけで「恐怖の報酬」ではないかと予感し、中を覗いてみればビンゴだった。
読んでみれば、山野井夫妻に関する内容は私も知っているよく知られた話だった。もっともこのエッセイ集、一篇ごとが比較的長くてワンテーマのエッセイというより、川が曲がりくねって流れるような、雑談の話題があちこち飛んでいくような何となくの繋がりのある話が綴られている。
「恐怖の報酬」の展開はこうだ。冒頭は道ばたで中年の女性が立ちすくんでいる。なぜかとみてみたら路上に蛇がいた。そこから始まり蛇とゴキブリとどちらが怖いかという話になり、様々な恐怖症があることに触れ、高所恐怖症と薬師丸ひろ子のエピソードがあり、自分は高所に強いという話に転じ、山野井夫妻と富士山とギャチュンカン峰の5500m地点(夫妻がベースキャンプを作った所)へ行っても(本人曰く)軽い高山病で済んだと書き、話はまた転じてヤクザが指を詰めるというシーンのあった映画の話となり、ヤクザがよくやって来る理髪店の店主との会話になって「糖尿病になると刺青の色が褪めやすい」となって、指を詰めた話となるのであるがそこで「指を落とすという話では山野井妙子さんの話に勝るものはない」と続く。そして、蛇とゴキブリとどちらが怖いという話に戻って終わるのである。
このようにどこへ転ぶか判らないようなエッセイが全部で13編。中でも逸品は筆者と高峯秀子さんとの関わり(実はかなり親しかった)を書いた「挽歌、ひとつ」かも知れない。もっともここでも途中で著者と尾崎豊とのたった一度の会話の話なども織り交ぜられているのだが。
そして、「アンラッキー・ブルース」でももう一度、山野井泰史が出て来た。歩いていると犬の散歩に出会ったという話から始まり、「10億分の1の男」という運を中心に据えた映画の話になり、その主人公が墜落した飛行機で生き残るという運の強い男であることから、著者自身が乗っていた飛行機が墜落したが助かったという話に続く。私たちは「運」という言葉を使って自分を納得させようとする。と結論じみた言葉を書いた上で締めとして山野井泰史が山道で親子連れのクマと出会って眉間をかまれ、ヘリコプターで病院に運ばれ100針ほど縫ったという事件の後に著者が見舞いに行くと彼はこう語ったと言うのである。「あのクマは運が悪かった」と。あのクマは自分に出会ってしまったばかりに地元の猟友会の人に追われることになった、と。さらにクマが「うまく逃げてくれるといいんだけど…」
(2020年6月11日読了)
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