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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百十四) 

2023年01月31日 外部ブログ記事
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 十時の開店と同時に、どっと流れ込む人ごみの中に、二人がいた。「すごいのね、小夜子さん。いつもこんな感じなの?」。かるい息切れを感じつつも、たかまる高揚感をおさえきれない勝子だった。小夜子にとっても、初めての経験だ。普段はお昼をすませてからであり、森田の出迎えがあった。しかし今日は、勝子の希望で開店と同時にした。「うわあ、素敵! おとぎの国に来たみたい。ねえねえ、小夜子さん。どこ、どこから見てまわるの?」。目を爛々とかがかせて店内を見まわす勝子は、まるで少女のようなはしゃぎ方だ。
「そうねえ、お洋服からにしましょうか。勝子さんにぴったりのお洋服を、まず探しましょう。それからバッグでしょ、お靴でしょ。それに、お帽子もね」「そんなにたくさん? 勝利に悪いわ、そんなぜいたくをして。勝利はあたしの病院代があるから、自分のものはなにも買ってないし」。顔をくもらせる勝子だが、小夜子はまるで意に介さない。「いいのよ、竹田は。男はね、女性を幸せにする義務があるのよ。そして女性から、その幸せのおすそわけをしてもらうの。女性がうれしいと、男もうれしいものなのよ。でも今日は、私からのプレゼント、贈りものよ」「だめよ、そんなこと。小夜子さんにはほんとに良くしてもらったんだから。これ以上甘えることはできないわ」「だめ、そんなことを言っては。遠慮なんてことばは、女性には無用のことばなの」
 婦人服売り場に立った勝子は、しばしことばを失った。むりもない。きのうまでは天井もまわりの壁も灰色がかった白にかこまれていた。寝返りをうつたびにギシギシと鳴るベッドにしばりつけられ、「勝利に感謝しなくちゃね」と呪文のごとくにつぶやく母親が話し相手だ。見渡すまわりには、自分とおなじくベッドに横たわる青白い顔の女性だけがいる。ときおり訪れる見舞客にしても、声を落としてぼそぼそと話している。その辛気くささがたまらない。
 シンと寝しずまった夜半にギシギシと音をたてて寝返りをうち、その音に目をさました勝子は同室のだれかを起こしたのではないかと気になり“すみません、すみません”とこころの中であやまりつづける日々をおくっていた。しかしいまはちがう。新しい女だと自認する小夜子のお供で、むねを反らせて店内をかっぽしていく。小夜子の先陣に立ち、どいてどいてと大きく手をふり、「そこのけそこのけ」とばかりに前を空けさせる。小娘ふたりがなにごと? と目をつり上げるマダムたちも、勝子の勢いにおされてスペースを空けてしまう。

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