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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百六十九) 

2022年10月11日 外部ブログ記事
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「ところで女将。この旅館の売りはなんですか? こいつは大事なんです、案外に。閑静だとか、庭が美しいとかです。老舗旅館だからだけというのは、売りにはならない。そう! 料理が美味いとか、珍品が食べられるとかなんかも良いですな。湯はどうです?」 疑問符をつけた武蔵の言いぐさに、毅然としてぬいが答えた。「もちろんでございますとも、立派な露天風呂がございます。幸い今夜は、社長さまの貸切状態でございますよ」 胸を張って小鼻を膨らませて、意気込むぬいだ。「あらまあ、あたくしとしたことが。幸いだなんて、とんでもない言葉をつかってしまいました。あたくし共にとっては、よろしくないことですのに」と、ひとりはしゃぎ回るぬいには、武蔵も呆気にとられてしまう。 終始笑みを絶やさぬぬいに、武蔵も脱帽だ。したたかな商売人なのか、はたまた楽天家なのか、武蔵にも判然としない。“仕事の話じゃなく、艶っぽい話をするつもりが。俺が熱くなってどうするんだ。どうにも、この女将を応援したくなってくるから不思議だ”
 駅からの道々、およそ20分ほどを二人並んでの道行きとなった。これといって見る景色はなかった。駅からまっすぐに伸びる本通りにしても、行き交う人はまばらだった。すれ違うたびに会釈をしてくる。その都度、軽く会釈を返す。「顔が広いんですな、さすがは女将だ」「小さな町ですから、ここは。みな、知り合いばかりです」 右手に見える連なった山々を、「あちらが北上高地でして、反対の山々が奥羽山脈でございます」と、着物の袖をすこしたくし上げて指さした。白い肌がほんのりと桜色に色づいているように見える。ほっそりとした手の指が、どこかで見た花のように思えた。手の甲から四方に向かっててんでばらばらに飛び出している――曼珠沙華の花びらに見えた。 土塀に沿って歩き角を曲がったところで、門柱2本に切妻の屋根をかけた棟門があらわれた。「着きました、どうぞお入りください」
「お帰りなさい、女将さん」 竹ほうきで石畳をはいている老人が声をかけてきた。武蔵の目には雑なはき方に見えた――中央あたりを力任せにはき、ただ単に両端にかき分けているように見えた。戸口をまたぐと、同じように両端にごみが寄せられているように見えた。その反面、上がり口は磨き込まれていた。“玄関はいただけないが、中はいいじゃないか。キチンと掃除も行き届いているし、壁の一輪挿しも見事なものだった。部屋にしても確かに古くはあるが、歴史といったものを感じさせてくれる。これが、風情というものか。床の間の生け花も、心を和ませてくれる。あたしってきれいでしょ! と威張る風でもなく、溶け込んでいるように見える”

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