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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百六十) 

2022年07月19日 外部ブログ記事
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「お怒りになるでしようか? ご相談と言うのは、他でもありません」 いったんは口を開いたものの、また無言がつづいた。時計の針は、七時十分過ぎを指している。特急は、七時三十四分発のはずだ。あるようでない時間だ。列車の到着時にバタバタと走り回りたくはない。小夜子の顔に険が表れ始めたことに気づいた幸子が、あわててことばをつないだ。「あつかましいとお思いになるかもしれませんが、小夜子さまにおすがりしたいのです」「ですから、何をなさりたいの? それを言ってくれなきゃ、お返事のしようがないわ!」 焦れったさから、つい声を荒げてしまった。
「申し訳ありません。あたし、自立した女性になりたいのです。小夜子さまには、とうてい及ばないことは分かっております。でも、少しでも小夜子さまに近づきたいのです。以前に仰られていた、自立した女性になりたいのです。それで、何をすればいいのか、お教え願いたいのです」
 すがるような目つきで、小夜子にひざまずいて懇願しかれぬ幸恵だった。「そう、自立した女性になりたいの。そうねえ、だったら……。あなた、ピアノが上手だったわね。ということは、手先が器用だということだから。……。そう、タイピストね。この間タケゾーの会社に遊びに行った時に聞いた話で、タイピストが不足しているってことよ。やっぱり学校があって、大勢の生徒さんが通ってるっ話だし。そうよ、それがいいわ。タイピストだったら、大会社に入れるでしょうし。そこで、BGとして働けばいいわ。ビジネスガールを略してね、ビージーって呼ばれてるの」
 やっと幸子の意図がわかり、せき止められていた水が放たれたがごとくに、滔々と話した。「よかったら、タケゾーに話してあげてもいいわよ。学費やらなにやら、けっこうな物入りですもの。あたくしもね、タケゾーに出会うまでは、ほんとに苦労したわ。生活費もね、ばかにならないし。だいじょうぶ。出世払いということばもありますから」 「ありがとうございます。金銭的なことは正三兄さんが面倒を見てくれますので、大丈夫です。ああ、やっぱりご相談して良かったわ。さっそく兄にその旨つたえて、準備にはいります」 目を輝かせて「ありがとうございました」と、何度も感謝のことばを口にする。「いいのよ。こんなことぐらいで、そんなにおっしゃらなくても」
 幸子の、飛び上がらんばかりの歓喜の思いが、小夜子にも伝わってくる。前途が大きく開けたとばかりに、意気揚々とした思いにつつまれている幸子がうらやましくも感じる。「新しい女性の小夜子さま」と言い切る幸子の思いが、うれしくもあり気うつにも感じる。武蔵の庇護のもとで「お姫さま、奥さま」と奉られている己が、小夜子自身の力ではないことを知る己が、情けなく感じる。その反面、まだまだこれからなのだと、己を鼓舞する小夜子でもある。「元始、女性は太陽であった」と言い切った平塚らいてふは、二十代半ばだった。まだ、あと五年ほどの猶予がある。
“そうよ、そうなの! 平塚先生に追いつくには、十分な時間だわ。『今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く、病人のような蒼白い顔の月である』。いまは先生の仰る小夜子であっても、これからよ、これからなの”
 

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