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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百三十九) 

2022年05月31日 外部ブログ記事
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 突然、佐伯本家の当主が小夜子の前に座り込んだ。先日の茂作の罵声に対する意趣返しかと色めきたった。「小夜子さん。あんたには、色々とすまんかった。正三のことで、色々とあったけれども。どうか、許してくれや。正三はの、逓信省の官吏さまになったんじゃ。行く行くは局長になって、次官さまとやらまで行かなきゃならんのじゃ。でな、甥の源之助に任せたんじゃ。それでまあ、あんたに連絡をさせなんだみたいで。勘弁じゃ、この通りじゃ」 他人に頭を下げることなど、まず有りえない佐伯本家の当主があやまった。村一番の実力者が、小娘である小夜子に土下座をしたのだ。ざわついていた座が、一瞬の内に静まり返った。
「ご、ご当主さま。おやめください。小夜子は、なんとも思っていませんから。そうじゃろう、小夜子。いけませんて、それは。どうぞ、頭を上げてください」 慌てて繁蔵が起こしにかかる。ここで佐伯本家の機嫌を損ねては、いくら武蔵の恩恵を預かろうかという者が出たとしても、いやそれを良しとする者は居なくなってしまう。そして繁蔵を応援する者も居なくなる。どころか、現村長に与することになってしまう。この式に当主自らが出向いたということが他の村人に伝われば、もう勝利間違いなしということになる。現村長を担ぐ者すら居なくなるかもしれない。
「ご立派! さすがに、村一番の実力者だ。御手洗武蔵、こんな立派な土下座は見たことがない。感服しました、実にすばらしい。ご当主さまのためにも、村に尽くさせていただきます」 小夜子に対する土下座ではないことは、すぐに武蔵には分かった。正三の次官への道を妨害しないでくれ、と武蔵には聞こえた。
“分かったよ、邪魔しないよ。俺だって、そんなことに構ってられるほど暇じゃないんだ。いいかい、その代わりに茂作さんを頼むぜ。決して粗末に扱うなよ。今日あんたがした土下座の意味を、決して忘れるなよ。俺も、あんたが見せた誠意をしっかりと覚えておくから”“そうね、そうよね。本家が邪魔をしてたのね。だからなのね。だけど、情けない男。女のために命をかける位の気概はないの? 見なさいな、タケゾーを。わたしの為なら、どんなことも” 小夜子が傲然と、頭を下げる佐伯本家当主を見下ろす。“ふんっ!”と鼻を鳴らしながら、口角も少し上げた。小夜子が見せた恍惚の表情だったが、誰に気付かれることもなかった。
佐伯本家当主は、武蔵になにやら耳打ちした後に退出した。まさかの出席に席を用意していなかった大婆が、どうしたものかと思案の最中のことだった。「少し身体の具合がわるいんで、これで失礼させてもらいますわ」と付き添いからの申し出に、「そんなお身体なのに、わざわざのお越しとは。ありがとうございました」と、大婆もまた、頭を畳にこすりつけて見送った。

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