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敏洋’s 昭和の恋物語り

恨みます (五) 

2022年05月09日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「発車、いたしまあす。お乗りの方は、お急ぎください」 駅のホーム上で、車掌が一樹を“急げ、急げ”と急かしている。すんでのところで車内に滑り込んだ。車内は押し合いへし合い状態で混み合っている。うんざりとした表情を見せながら、電車の揺れにそなえて吊革につかまっている――しがみついている。一樹といえば、ドア付近にいては停車駅ごとの乗降客に巻き込まれかねないと、車内の中央部に向かおうとしている。“あの女、なんで泣きそうな顔してるんだ。えっ? まさか……。チカンか? こんなブス相手に、なに考えてんだか”
=====痴漢にやられてる女を探してみろ。声を出せない女がベストだな。そういう気弱な女を捕まえろ。それで、正義のヒーローよろしく、助けるんだよ。でその後、いろいろと親身になってやるのさ。分かってるだろうが、バイの為だかんな。そこを忘れるなよ。自宅を押さえられたら最高だな。「その後どうですか?」と、家庭訪問ができるからな。出社すると言ったら、必ずついて行け。で、そのまま張り付いてろ。これ、大事だぞ。早退する可能性もあるからな。そうなったら、こっちのもんだ。「心配だったんで……」とか何とか、理由をつけろ。いいか、絶対に自宅を突き止めろ。ハンターなんだ、お前は。狩りなんだ、これは。?=====一樹の上司であり敬愛する健二木の声が、今、一樹の耳に鳴り響く。“そうだ、これは大チャンスだ”
顔を真っ赤にした女が、今にも泣きださんばかりになっている。誰もそのことに気が付かないのか、それとも関わりになることを嫌っているのか、女の体が崩れかかった。そんな中で、「止めろ! この、チカン野郎が!」。正義のヒーローよろしく、一樹が声を上げた。「な、なんだよ、あんた。なんのことだい」「このヤロー、しらばっくれるつもりか。お前、チカンしてたろうが」「じょ、ジョーダンっしょ! 知らないよ、オレ」 真っ青になった男が、その場を離れようとした。「待てよ、こらあ。逃げんなよ。まず、彼女にあやまれえ!」 男の手を取って、ねじり上げた。
「見たんだよ、オレが。お前の手が、この女性のスカートの中に入ってるところを」 一樹は男の手を上げて、大声で叫んだ。「みなさーん! この男、チカンでーす」「やめてください、やめてくださいよ」「だからチカンしたと認めて、彼女にあやまれよ」「だから、違うって、言ってるでしょうが」「いや、違わない!」「カノジョに聞いてくださいよ。ねえ、カノジョ!」 押し問答が繰り返されたが、当の女性からはひと言も発せられなかった。
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