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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百十) 

2022年03月24日 外部ブログ記事
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その怒りの矛先が、いま武蔵に向けられている。「そうか、悪かった。俺が悪かったよ、小夜子。そうか、小夜子の夢をうばったのは俺だったのか。心配するな、な、小夜子」 幼子を抱え込むように、あやすように、ゆっくりと武蔵が語りかける。「どうだ、アメリカに行こうじゃないか。すぐにと言うわけにはいかんが、アナスターシアのお墓参りに行こう。それで、アナスターシアに報告しよう」「ほんとに? ほんとに、連れて行ってくれる?」 涙でくしゃのくしゃの顔を上げる小夜子。うんうんと頷く武蔵。ぼんやりとした月明かりの中、ゆっくりと武蔵の胸にしずむ小夜子だった。
 一時間ほど経ったろうか、小夜子がすやすやと軽い寝息をたてはじめた。そっと小夜子の体をはずし、ソファに横たえさせた。ひじ掛けに頭をのせて、満足げに微笑んでいる小夜子の寝顔をのぞきこんだ。“ふんぎりが付いたようだな。しかし、やっぱりショックだったか。正三くんを、おどおどしていた青年ではなく、いっぱしの男として認めたんだな。いや、それが許せないのか? 掌中にいたと思っていた男が、いつの間にか羽をつけて飛びまわっていたことが” テーブルにジョニ黒を持ちだし、床にどっかりと腰をおろした。
そして庭に目をやる。うっそうとした木々が邪魔をして空がない、そんな庭をつくった。「旦那。この庭にこの木は、ちょっと……」。植木職人が異を唱えた。「もう少し減らしましょうや。これじゃあ、月明かりもなにも見えやせんぜ」しかし武蔵の気持ちはかたくなだった。生家の庭を再現したいという意固地な思いは変わらなかった。「俺を捨てたことを後悔させてやる」。その一念が、いまの武蔵をつくりあげている。しかし今、その庭が一変した。一本だけ残した樹木の下には、色とりどりの花が植えられている。「なに、この庭は。暗い、暗すぎる! こんなのいや!」小夜子のひと声に「分かった、分かった。一本だけは残してくれ」と、武蔵がおれた。
「今夜は小夜子の寝顔を肴に、一杯やるか。乾杯したい気持ちだな、まったく。よし、『小夜子に乾杯だ!』」まばたきをする星々を押しのけるように浮かんでいる月に向かって、グラスをささげた。充足感に満ちた表情を浮かべて、「間髪を入れずに、だな。小夜子の気持ちがぐらつかぬ内に、一気呵成にいくぞ」と、誰に言うともなく声に出した。「いいか、武蔵。浮気がだめだとは言わないけれども、小夜子を泣かすことだけはいかんぞ」。窓にうつる己に――言い聞かせるがごときの武蔵――そんな己に酔った。 薄雲が月を陰らせていく。まばたいていた星々がその動きをとめた、と武蔵の目にうつった。しかしすぐにまた、輝きを取りもどした星々。それが武蔵たちの行く末を暗示したのかどうか、どう考えるべきか。

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