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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(百四十六) 

2021年10月12日 外部ブログ記事
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「お帰りなさい! 社長」
 階下から、社長を迎える声がした。慌てて部屋から飛び出した五平は、階段下で立ち話をしている武蔵を急かした。
「社、長! 大変な事態ですよ。早く上がってきてください」
「何をそんなにうろたえてるんだ、五平らしくもない」
 息せき切って、社長室の扉を荒々しく閉じた。
「あの、小娘のことです。逓信省の、えーと、簡易保険局局長の佐伯源之助なる人物からの電話らしいですわ。
で、そんな社員はいない、と返事したらしいんですわ。いや、あたしが留守の時でして」
 メモ書きを見ながら、五平は不安げに告げた。

「ふん、そんなもの。研修中で社員登録していなかった、とでも言っておけばいいさ」
 武蔵は、事もなげに素っ気なく答えた。
「いやしかしですなあ、未成年ですし。親の了解も取らずに、社長宅に入れたんですから。
相手は、なにせ官吏さまですから。未成年略奪罪云々と言われても、弁解できませんわ」
「そんなもの。相手はな、探りを入れてきてるんだよ。
喜ぶわさ、小夜子が俺ん家に居ると分かれば。
まあ、いい。俺が話をする。ええっと、電話番号は分かるか?」
「これ、この通り。直通です、この番号は」

「うん、分かった。五平、何を心配してるんだ。
この男は、小夜子を遠ざけようとしてるんだよ。
正三とか言うボンボンの、叔父さんかなんかだろう。
大事な甥っこの嫁に、小夜子を迎えるはずがないだろうが。
それ相応の閨閥を考えるに決まってる」
「そうですなあ、確かに。あたしとしたことが、局長と言う地位に、ちょっと。
こっちにゃ、つえーえバックがいるんでしたよ」

 ニヤリと笑ってメモ紙を差し出す五平の顔には、もう不安の色はなかった。
慌てふためいた己がおかしくなっていた。
「おう、分かった。もう、下がっていいぞ。
さてと、引導でも渡すか。怒るかな、それとも泣くか? 
何にしても修羅場は覚悟せにゃいかんだろう」

 小夜子の気持ちを考えると少し胸の痛みを覚えたが、遅かれ早かれ通らねばならぬ道ではあった。
“となると、あいつの機嫌取りをしておかなくちゃ、な。うーん、どうするか”
“それとも、いっそのこと強引に、いくか”
“どうもあいつのことになると、弱気の虫が出ていかん。情けないぞ、武蔵!”
 小夜子にはどうしても弱気になってしまう己に活を入れようとするが、身体のどこかに穴が空いてしまうのか、すぐに萎んでしまう。
頬を両手で叩いてみるが、すぐに腰折れしてしまう。
これが惚れた弱みという奴かと思うのだが、俺らしくもないと自嘲してしまう。

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