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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(百三十九) 

2021年09月23日 外部ブログ記事
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 相好を崩して手を叩く武蔵に、他の客たちの視線が一斉に集まった。
「こりゃいかん。どうも、お騒がせしまして、申し訳ありません。ワイフの英語上達に、つい」
 深々とお辞儀をしてトイレへと入り込む武蔵に、
「お父さん、ワイフってなによ! お嫁さんにはならないって、言ってるでしょうに」と、小声で言う小夜子。
しかし武蔵は、まるで口笛を吹きながらのような軽い足取りで意に介さない。
「言った者勝ちさ!」

 席に戻った武蔵に膨れっ面を見せながらも、目が笑っている小夜子だ。
「もう、お父さんったら! 口、利いてあげないから!」
「そんなこと言うなら、ジャズ演奏、連れて行かないぞお、だ」
「ずるい! 約束してる、じゃない!」
「ハハハ、口、利いてくれたな。俺の勝ちだ、ハハハ」

 ますます頬を膨らませて、まるでおたふく顔になる小夜子だ。
「鏡で見てみろ、面白い顔してるぞ」
 今夜の武蔵は、小夜子をからかうことを中々止めない。
普段ならば「降参、降参だ。小夜子に口を利いてもらえないと、俺、死んじゃうぞ。勘弁してくれ、俺が悪かった」と、平謝りする。
面食らってしまった小夜子だが、今さら振り上げたこぶしの下ろしようがない。
と、みるみる目から大粒の涙が溢れ出した。
「お父さん、きらい!」
 初めは微笑ましく感じてにこやかに見ていた周りの客も、小夜子の涙を見たとたんに、そこかしこで囁き始めた。
「やりすぎたか? 形勢逆転だ。逆転満塁ホームランを打たれたな。
すまん、すまん。度が過ぎました、失礼しました」
 再度、満座に対し頭を下げた。

 夜の帳が降りた銀座では、夜空の星を消すほどにネオンサインが輝いていた。
すぐにも車に乗り込もうとする武蔵に対して「少し歩きたいわ。ウィンドショッピングを愉しみたい」と、小夜子はさっさと歩き出した。
“男の後ろを付いて歩くのが女だというのに、小夜子の奴は”と苦笑いをしつつも、
“そうだった。これが小夜子だ、新しい女だとかなんだとか、虚勢を張りたがるのが、小夜子だった”と、感心する武蔵だった。
 銀座界隈を闊歩していた米兵に変わり、今では日本人ばかりが歩いている。
三つ揃いの背広を着こなす紳士たちが増えて、女性もまたモンペ服を脱ぎ捨てて、身体にフィットするワンピース姿やらブラウスにフレアスカートと多種多彩になっていた。
“日本もやっと復興した”。そんな実感を感じさせる夜だった。

「満足したか?」「うん。でも、また連れてきてね」。
武蔵の腕にしがみつきながら心地良い風に吹かれて、満足げに答える小夜子だった。
タクシーの車内では、武蔵の肩に頭を預けて、軽い寝息を立てる小夜子だった。

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