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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (八十八) 

2021年03月24日 外部ブログ記事
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「それにしても、ご酒がお強いのですね? 驚きましたわ、本当に。
ご用意が間に合わずに、失礼致しました」
 女将は、庭に設置してある椅子を勧めながら、自らも腰をおろした。
「いやいや。ぼくも専務も、あれ程に飲んだのは、初めてで。
何せ、床の間を埋め尽くせ! とばかりに、やりましたから」
「お体の方は、大丈夫でございますか? 
少しは、お寝みになられましたでしょうか?」
「うん、少しね。しかしこんな飲み方をしていちゃあ、先が短いでしょう。
まっ、太く短くですな」
「そんなこと……」
「いやいや、早死にしますよ。自分の体ですからね、分かるんです」

 話の勢いで出た言葉だったが、何かしら予言じみたものに感じられた。
死を恐れる気持ちがないわけではないが、もしも選択を迫られたら――御手洗武蔵という男に胸を張ることが出来ない状態に追い込まれたら、きっとその選択を拒否することになるだろうと思えた。
それがどんな時なのか、今は想像もつかないが、その時には男として死のうと考える武蔵だった。
「命を惜しむな、名を惜しめ」。どこかで耳にした言葉が、武蔵の心に、その琴線に響いた。

「大丈夫ですわ、きっと。社長さまのご酒は、楽しいご酒ですから」
「楽しい、酒ですか?」
「そうですわ」
「ところで、女将のご主人は?」
「宅は、グチの多い酒でした。偏平足ということで、、、あっ、おたまちゃん! 社長さまに、白湯をお持ちしてね」
 聞かれたくないことをと軽く武蔵を睨み付けながら、縁先を通る仲居に声をかけた。

「それにしても、社長さまの奥様は幸せ者ですわね」
「ハハハ。残念ながら、独り身です。そのことでは、昨夜、女性陣に責められました」
「あら、残念! あたくしが、十も若かったら、押しかけましたのに」
「女将なら、歓迎しますよ」
「お上手ですこと。社長さまのことですもの、あちこちに、いい方がいらっしゃるでしょうに」

 久しぶりに、ゆったりとした気分に浸る武蔵だった。
“そうだな。そろそろ、身を固めてもいい頃かもしれんな”。
灯りの消えている自宅に帰った時の寂寥感が、最近とみに堪えてしまう。
「ご苦労さん、おたまちゃん。お連れの方は、どうしてらっしゃるの?」
「はい。先ほどお伺いしましたら、まだお寝みでございました」
「そう、分かったわ。お目覚めになられたら、『』社長さまはお庭にいらっしゃいます”と、お伝えしておいてね」
 武蔵に対し、深々とお辞儀をして仲居は辞した。

「よく躾が行き届いていますな、これが老舗旅館ですか」
「とんでもございません。、古いだけの旅館でございます。
さっ、白湯を召し上がってください」
「そうだ、女将。徳利を進呈しなくちゃいかんな。
昨夜に、なにか暴言を吐いた記憶があるんだが」
「お宜しいんですのよ、社長さま。当方の手落ちでございますから。
中々補充がままなりませんものですから、不足してしまいました。
とんだ、不調法でございました」

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