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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (八十五) 

2021年03月17日 外部ブログ記事
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 意外なことに、武蔵の表情は笑っていた。
怒りを隠してのことではなく、自嘲気味でもなく心底から笑っていた。
「良い勉強をさせてもらったよ。
親父は反面教師で、あの従兄は、俺の先生さまだ。
あの方をじっくりと観察することで、色々と勉強させてもらったからな」

「それじゃ」と腰を上げかけた五平に「まだ良いだろう。ちょっと話しときたいことがある」と、小声で耳打ちした。
今日は休みですし、と再度腰を下ろした。  
「夜逃げした店の、雇い人たちのことだ。
明日にでもやって来るかもしれん。適当にあしらってくれ。
口から出任せで、『従業員たちの面倒をみる』と言ってある。
もしも、というか来るだろう、きっと。
「知らぬ存ぜぬ」で押し通してくれ。
それから残金なんだが、のらりくらりで踏み倒せ。どうせ社長は夜逃げしてるだろうから」

 武蔵の言い放った言葉に、相手次第で鬼にも仏にも慣れるお方だと、竹田の背に冷たいものが流れた。
“身内はとことん守ってもらえる。
けど、相手が敵に回ってしまったら、その理由が何であれ徹底的に叩くお方なんだ”。
 この二人に、あの日の会話を教えようかと考えた。
そのことをどう考えるか、二人の反応を見てみたい気もした。
その反面、知ることが怖くもあった。

服部は、社長を理解するだろう。
「裏切った奴が悪い」と、即座に答えるだろう。
山田はどうだ? 服部に同調するか? 表だって異は唱えないだろう。
しかし心内では反発するかもしれない。
相手に対して同情癖のある男だ、「特別の事情があるんじゃないのか」。そう考えるはずだ。

ただ、いやそうはいっても、自分に跳ね返ってくることだ。
死ぬか生きるかの追い込まれたときに相手の事情を考えるだろうか、そう考えると、山田もそうだが自分だって、と考えてしまう。
人間としてどうなんだ、と考える。
そのとき、姉のことが思い出された。
母親のことが思い出された。うさんくさい占い師らに翻弄され続け、給料の大半を吸い上げられて悲惨な家庭生活に追い込まれた。
そのときに、いっそ逃げだそうか、家族を見捨てようか、そう考えた己を思い出した。
そこまで追い込まれたときに、この二人の助言にどれほど助けられたか。
五平に話す機会を得て救われた。そしてその機会を作ってくれたのが武蔵だと知り、「一生をこのお方に捧げる」と誓ったのだ。

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