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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (八十) 

2021年03月04日 外部ブログ記事
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だだっ広い広間に、二人だけが残った。
仲居たちが「よろしいでしょうか」と声をかけて片付けにかかった。
「いいぞ。ただ、ここには酒をジャンジャン頼むよ」と声をかけた。
二本のお銚子を持ってきた仲居に対して
「面倒だろうから、冷やで良い。とに角10本ぐらいを持ってきてくれ。
で呼んだら、また追加だ。今夜はここで飲み明かすから、よろしく頼むよ」
と、手の中に札を握らせた。こんなに、と恐縮するが返すそぶりは見せなかった。

「それじゃ、社長。あらためて、ということで」と、杯を上げて酌み交わした。
「おい、五平。今だけは、タケさんでいこうや」
杯じゃ面倒だと、コップ酒に切り替えた。
「五平よ。俺は、どのくらいの寿命をもらってると思う。
子供を持たせてもらえるだろうか」
 大きくため息を吐きながら、思いもかけぬ言葉が洩れた。
「何を気弱になってるんです? ガキなんてのは、知らぬ内に出来てるもんですよ。
欲しいからって出来るもんじゃありません。
その前に嫁さんですって。でなきゃ、授かるものも授かれませんよ。
しっかりしてくださいな、社じゃなかった、タケさん」
「そうだな、そういうことだな」
「どうしたんです? また急に」
「うん、ちょっとな」

 武蔵の変化に気づいてはいた。
弱気とまでは言わぬまでも、猪突猛進さが失われたとは感じていた。
疲れを知らぬ邁進ぶりが、成りを潜め始めたと感じていた。
病み上がりのせいか、とも思える。いや、そう思いたい五平だった。

「しかしタケさん。あの親分、やってくれましたなあ。
タケさんの仇討ちとばかりに、あの三国人に……」
「おいおい、滅多なことは言うなよ。犯人不明ということになってるんだ」
「そうでした、そうでした」
「しかしまさか、あそこの娘が嫁いでいたとはな。まったく肝を冷やしたぜ」
「あいつらは、問答無用ですからねえ」

 ガチャガチャといった片付けの音が邪魔で、次第に声が大きくなり出した。
小声で、と武蔵が言うのだが五平は、生来声が大きい。
密談には不向きな男だ。必然体を縮混ませて、体を寄せ手の話となってしまう。
傍から見ると、よからぬ算段をしているように見える。
ほぼ片付けの済んだ頃に、広間の入り口から宿の女将が二人に視線を送るが二人は気付かない。
大きな声を上げながら近づけば問題はないのだが、今の二人には人を寄せ付けぬ空気が漂っている。

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