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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (五十六) 

2021年01月07日 外部ブログ記事
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「アーシアはね、一人ぼっちなの。お家がないの。
待っててくれる家族が居ないのよ。
寂しいの、哀しいの。
でね、あたしが妹になったの。
お父さんにね、もう一人娘ができたのよ。どう、嬉しい?」

「そうか、そうか。妹に、なったのか。うん、うん、良いことをしてあげた」
 家すら持たぬおなごとは哀れなものじゃ。
正三に聞かされたこととはあまりに違いすぎる境遇に首をかしげつつも、旅芸人のようなものかと解釈してしまった。
他愛もない女同士のその場限りの約束事だろうと、軽く考えてしまった。
人生最悪とも言える事態が、このことによってもたらされることになるとは、予想だにできなかった。

「アーシアはね、ロシア人なの。
肌がとっても白くて、透き通るような肌なの。
髪は金色で、、」
「なんだと! ロシア人? ロシア人はいかん! 
あいつらは信用できん。今度の戦争にしても、ロシアの裏切りで負けたんじゃから。
満州でたくさんの人がひどい目におうてる。
捕虜で捕まった人たちが、いっぱい居るんじゃ。
まだ戻られておらん方たちが、たくさんおいでになるし」

 突然、怒り出した。
ロシア人に対する敵意を剥き出しにして、茂作が怒りだした。
しかし小夜子も負けてはいない。
確かに、ロシアの裏切りによって奥の日本人が苦難の捕虜生活を強いられていると聞きはした。
鬼畜米英以上に人でなしだと、村人たちの口の端に乗っている。

「そんなの、おかしい! 日本人にだって悪い人はいる。
ロシア人にだって、良い人はいるわ。
アーシアは、良い人なの。
それに、王家の血筋を引いてるんですって。
日本の天皇家みたいなものよ」

「そんなことを言うなんぞ、胡散臭いのお」
「違うもん、アーシアが言ったことじゃないもん! 
他の人から聞いたもん」
「なお悪いわ! 取り巻きが言いふらすのは、始末に悪い。
バレた時に、言い訳ができる」
「そんなことないもん、アーシアは悪くない!」

 どう説明しても、茂作の口から出る言葉は非難ばかりだ。
庇えば庇うほど、茂作の言葉が辛辣になってくる。
「爺ちゃんの意地悪う!」と、今にも泣きそうな顔で立ち上がった。
「やれやれ、やっぱり行かせるんじゃなかった。毒されてしまったか。
しかし小夜子らしからぬことじゃて、あの位のことで泣き出すとは」。
仏壇の前で「なあ、ミツ、澄江や」と、手を合わせた。

「小夜子、大丈夫かい? さっきはすまなんだ。ちょっと言い過ぎた、、、」
 襖越しに小夜子に声をかける茂作に、「あっちに行って!」と、厳しい声が投げつけられた。
「わしが悪かった、悪かった。ロシア人皆が、悪いわけじゃない。
えっと、誰じゃったか? その娘さんはいい子で、、、」
「あっちに、行って!爺ちゃん、嫌い!」
 取付く島もなく、茂作を追い返してしまった。

“どうしちゃったのかしら、あたし。
あんなこと位で泣くなんて。弱虫になっちゃった”
 窓から見える山々の向こうに見える青く澄んだ空に、アナスターシアを思う小夜子だった。
“今ごろは、アメリカに着いたのかしら。
マッケンジーさんの家で、休んでいる頃かしら。
それともまだ、移動中? 
そうよね、2日ほどかかるって言ってたじゃない。

こんなことなら、アーシアと一緒に行けば良かったかしら。
泣いてるの、アーシア。
あたしも、あなたのことを思うと、涙が止まらないわ。
決めた! 誰がなんと言おうと、東京に出る。
正三さんに家を借りてもらい、お勉強よ。
大丈夫、正三さんは説得できる”。

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