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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (五十四) 

2021年01月05日 外部ブログ記事
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「ああ、そうそう。忘れるところだったわ。お土産よね。はい、これ」
 正三に、きれいなリボンで包装された箱が手渡された。
軽く小さめの長方形で、ネクタイにしては小さすぎる。
正三の中にネクタイが浮かんだのは、つい先日に母親から「初登庁には、これを締めて行きなさい」と手渡されたからだった。

紺地に金糸が斜めに5ミリ間隔に縫い込まれているデザインで、「派手じゃないですか」と非難めいた言葉を口にしてしまった。
と、意外にも「正三さんもそう思うの?」と、我が意を得たりと顔を緩めて答える初江だった。
「お父さまがね、権藤のおじ様のお薦めだからと仰って。だからね、間違いないことだって」
「そうですか、おじさんの見立てですか。だったらいいでしょう」と、得心した。

逓信省への入庁資格を得させてくれたのは権藤叔父だ。
父親からも「あいつの言うとおりにすれば間違いはない」と、事あるごとに言われている。
もしもネクタイなら、初入庁にはこちらにしようと考えつつ「開けていいですか?」と、リボンを丁寧に外した。

「万年筆だ。ええ! パーカー製じゃないですか。いいんですか、こんな良い物を」
「いいんじゃないの。もう貰ってきてるんだから」
「いゃあ、欲しかったんです。でも、何で分ったんでしょうかね」
「あたしよ、あたし。官吏さまになるのって、教えちゃったの。
で、前田さんがアーシアに助言して、決まったの」
「ありがとう、小夜子さん。感激です、ぼく」

 思わず小夜子の手を握り、激しく振った。
まさかと思える事だった。思いもかけぬ贈り物だった。
誰かの進言だとしても、「要らないわ」のひと言で済ませるはずの小夜子だと思える正三だった。
「アーシアのおかげで変わったの」と、小夜子は言った。
“変わる? 小夜子が変わる? 
今だけさ、明日には元の小夜子さんに戻るのさ”。どうしてもそう思ってしまう正三だった。

どんなに衝撃的な事に出会ったとしても、永続的になることはない、
そう思ってしまう正三だった。
“ならば、ぼくの気持ちも変わるというのか? あり得ない、それはあり得ない。
ぼくの小夜子さんに対する思いは本物だ。
変わるわけがない。けれども、小夜子さんは……残念だけど、移り気な女性だ。
常に傍に居て、常に思いを示さねばならない”。そう思える正三だった。

「痛い、痛いわ、正三さん」
「小夜子、小夜子!」
 茂作の呼ぶ声で、「じゃ、またね」と、小夜子が中に入った。

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