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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (三十六) 

2020年11月24日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 ショーは五階のフロアで行われる。エレベータを降りると真新しい板で仕切られた一角があった。
フロアの半分ほどを使ってのファッションショー会場となっている。
舞台設定は真っ直ぐに伸びるランウエイのステージを囲むように、観客席が用意されている。
ファッションに対する欲求が戦後の復興と共に高まってきた証しで、折りたたみ椅子がすき間なく並べられていた。
時間が押し迫ってからの来場では、確かに良い席は取れないなと、正三も納得した。

 小夜子はガランとしたその場に立ち、これから始まるであろうショーに思いを馳せた。
小夜子の知らぬ世界が、眼前に現れるはずだ。
小夜子にはショーというものがどういうものなのか、分からない、想像すらできない。
本家の重蔵に聞かされた大相撲では土俵上で懸賞旗がグルグルと回るというが、ファッションショーではこのステージの上にただ単に並べられるのかもしれない。
いや、そうではなかった。
小夜子の生活の場である村では見られないファッションに身をまとったモデルたちが、颯爽とこの直線状のステージの上を歩いてくるのだ。
1階のポスターで見た、妖精のようなモデルが歩いてくるのだ。

「どうなるの?」と、期待感で一杯の胸は、早鐘のように波打った。

「あそこの席に座わりましょう」
 正面の一番前の席を指差すと、さっさと歩き出した。
「小夜子さん、まだ二時間あります。お腹減ってきますよ。この階に食堂がありました。食べませんか」
「だったら正三さん、お弁当でも買ってきて。(ほんと、気が利かない人ねえ)」
 眉間にしわを寄せて、冷たく言い放った。
またやらかしてしまった、と後悔する正三は「分かりました。どんなものがいいですか?」と、従うしかない。
しかし小夜子は「お任せするわ」と、ひと言だけで済ませた。
“どんなものがいいんだろう。女性の好むものって、何だろ?”

 首を振り振り、正三が会場を後にした。
と同時に係員が小夜子を見咎め、「お客さま、まだ準備中です。そのお席はお止めください」と、退席するよう促してきた。
「準備中でもいいです。ここが一番見やすい席ですから。
良い席に座るために早く来たんです」と、小夜子も譲らない。
「あのね、娘さん。三列目まではね、誰が座るか決まってるの。
一般の客はね、もっと後ろに居てくれなくちゃ」と、小夜子を追い立てた。

「ポスターには、そんなこと書いてなかったわ」と、口を尖らせると
「常識というものがないの? あんたには。
あんたのような若い娘が、着るような服じゃないんだから。
さあさあ、大人になってからお出で」と、相手にしなかった。
「どうしました? 坂田さん。なにか問題でも?」
 舞台の袖から、女性の声がした。慌てて
「いえ、問題はありません。ちょっとこの小娘に、説教をしてただけで」と、小夜子を椅子から立たせた。

「ちょっと、待って。彼が、“待ちなさい”って言ってます。
その娘を『stay hereさせなさい』って言ってます」
 傍らの外人と話をしながら、小夜子をその場に留め置くよう伝えた。
「また、あの女が!」と、舌打ちしながら、坂田は小夜子の腕を掴み続けている。
「放してください、痛いです」
「あ、ああ。ちょっと、ここに居て」と、小夜子から離れて二人の元に駆け寄った。

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