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敏洋’s 昭和の恋物語り

せからしか! (二十一) 

2020年03月25日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 怒りの思いでいっぱいになった。
私の味方だとばかり思っていた父が、私を裏切った。
信じられないことに、私を悪者にしたのだ。
私を見殺しにしそうになったあいつを、いや見殺しにしたあいつを許すどころか、褒めている。

 そして兄といえば、ひと言も発することなく、ただだまって項(うな)垂(だ)れている。

(何か言ってよ、お前が弟をころしかけたんだ、そう言ってよ)

 何度も兄をこずいた。しかしなにもしてくれない、言ってくれない。

(知ってるだろ、いつもじゃまにしてたことを。あっちに行けと、ぼくをじゃけんにしたことを)
(うらぎられた、兄にも。父だけでなく、兄もまた、ぼくをみすてた)

 どす黒い澱(おり)のようなものが、胸に渦巻いている。
ドロドロと心臓の中で廻っている。
やがてそれは身体中を駆け巡って、頭の先から足先にまで届き、爪が黒くなり頭の毛からは腐った鼠が放つような悪臭を放ち出す。
そしてすぐに白目すら黒くなり、耳からはコールタールがあふれ出て、最後には[よわむしおばけ]になってしまう。

(どうして、どうしてなの。
ぼくがおばけになってしまってもいいの? 
そんなのいやだ。
あいつだ、あいつがわるいんだ)。

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