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2019年05月18日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「こりゃ、描かれるな……」
という予感がある。
それは、立場を逆に、置き換えてみればわかる。
私だって、書きたい。
ネズミが常に飢えているように、私もまた、
書くことに対し貪欲で、常に飢餓感を持っている。

ネタの見つからない時がある。
いざとなるとネズミが、そこらの柱でも齧りかねないように、
私もまた、周辺の事物へと、この歯を向ける。
そこに人が居れば、なお結構だ。
人ほど噛み応えのあるものはない。
多分、迷惑だろうな……と、友人知人の顔を、
あれこれ思い浮かべつつ、
こんな「書き魔」と関わり合ったのが、身の不運だ、
どうか諦めて下さいと、心の中で謝りつつ齧っている。

因果応報ということがある。
散々に、人を俎上に上げた罰だ。
逆に私が描かれる時は、どう扱われようと、仕方ない。
それこそ齧られようと、叩かれようと……と思っている。

彼女の場合は、漫画を描いておられる。
その家庭内を題材としている。
主婦として、幼い子供達、そして旦那と関わる中に、
ふと笑いを誘う些事がある。

それを丹念に拾い上げるところ、
かつて一世を風靡した「サザエさん」を彷彿とさせる。
但し、今のところ、その家族くらいしか、登場していない。
これがもし、サザエさんの場合の、伊佐坂先生や、
三河屋酒店の小僧さん、花沢不動産の社長など、
周辺の人物にまで、その筆が及んだ時、私も危うくなる。
一癖も二癖もある、囲碁の先生として、きっと登場させられるであろう。
私には一風変わったところがあり、これを世間は、変人と言っている。
自分で言うのもおかしいが、私はきっと、描き甲斐のある男であろう。

彼女は、絵が上手い。
人物の、その特徴をしっかりと、捉えている。
さらに、感情表現が豊かであい、喜怒哀楽を初めとする、
諸々の感情をその顔に、しっかりと載せている。
例えば、眉を顰めるその顔には
「めいわく」の四字が透けて見えるようだ。

その表現力は、一体何処で習得されたのであろうか。
デッサンの基礎は、独学ではなく、美大で学んだのではなかろうか。
と私は推測するのだが、まだ、尋ねることはしないでいる。
私はまだ、彼女の漫画のことを、誰にも伝えていない。
作者本人にも言わず、黙って、そのブログを眺めている。
彼女に会っても、何食わぬ顔で、時候の挨拶をする。
もうしばらく、隠れ読者のままで居ようと思っている。

 * * *

H男は小学生であり、私の囲碁の生徒である。
その彼が、一ヶ月ほど前に、が言った。
「うちのお母さん、漫画家なんだー」
商家の息子が、その家業を語るように、あっけらかんと言った。
「へー」
「本も出してるよー」
「ホー」

そりゃ、大したもんだねと応じつつ、
子供の話を、真に受けるつもりもなかった。
本くらい、私だって出している。
しかしながら、私の文筆は「業」ではなく「家」でもなく、
単なる「者」に過ぎない。
そして、そんな「者」は、この世にごまんと居る。
その厖大な「者」の中から、ほんの一握りの者が「家」として立つ。
プロになるのは、そう言うことだと思っている。

H男の言った、幾つかの単語と、固有名詞を継ぎ合わせ、
ネットで検索して見た。
そうしたら、じきに彼女のブログに行き着いた。
面白い。
家庭漫画として、上々の出来であるように思われる。
問題は、売れるかどうか……つまり、
プロとして、その道で食えるかどうか……である。
私にはわからない。
現状は、専業主婦である。
しかし、一介の主婦……とも言えない。
その言葉の端々に、何かしら匂うものがある。
常人とは違うそれを、才能の余韻と言っていいかもしれない。

 * * *

私は、冬場、コタツに入る時、左足の靴下を脱ぐ。
暖気を直接肌に受け、気持よいからだ。
片足だけ脱ぐ。
この理由が、私にもわからない。
そう言う習性になってしまった……と言うよりない。

たまたま来客があった際に、左だけ裸足のまま、
応対に出たことがある。
そうしたら、T子さんが笑った。
「せんせ、何ですかそれは?」
「ああ……」
私は慌てて靴下を履きに、奥へ戻った。

何処へ出かけるわけでもない。
自宅なのだから、構わないではないか。
と私は思っているのだが、客の目には、奇異に見えるらしい。
客によって……というべきであろう。
何も言わない人も居る。
そこに遠慮があるかもしれない。
男性客は、概ね何も言わない。
武士は相身互い、ということもあるであろう。
男は一旦外に出れば、七人の敵が居るけれど、ここは自宅であり、
放恣に明け暮れていて、何が悪いか……ということになる。

何も言わない客の中に、件の漫画家さんが居る。
偶然とは恐ろしい。
彼女がサロンを訪ねてくれた、その度に、私は片裸足で居た。
「いらっしゃい」
私は、奇異な格好のまま、出迎え、さらに雑談に応じた。
茶も出した。
彼女は当然に、気付いているはずだ。
しかし、何も言わない。
笑いもしない。
その数、三度に及んだ。

私は、彼女の胸中が、おおよそ推測出来ている。
私は、彼女の漫画に、いずれ登場するだろう。
その時の絵だ。
多分、片足靴下、片足素足のままだろう。

表現者は、先ず観察者だ。
奇異な光景は、それを指摘したり、終了させたりしてはいけない。
テキは泳がせておくに限る。
しめたとばかりに、眺める。
それが表現者だ。

彼女がそう来るなら、こっちもだ。
私だって、筆は違うが、書くことを日常としている。
書いてやる。
しかし、今のところ、見つからないのだな、彼女の奇矯が。
それで困っている。
何かへまを、やらかしてくれないだろうか……
彼女がサロンに現われる度、それを願っている。



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