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吾喰楽家の食卓

四月上席は林家正蔵 

2019年04月04日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

国立演芸場へ通い始めて、五年目に入った。
私が知る限り、毎年、ここの四月上席は、林家正蔵師がトリを勤めている。
通常、寄席だと、何を遣るのかは、当日にならないと分からない。
そうではなく、あらかじめ演題を告知することを、“ネタ出し”と言う。
直近の四年間、正蔵師は四月上席を、ネタ出しで口演している。
ネタ出しの演題は、平成28年『中村仲蔵』と『藪入り』、同29年『百年目』、同30年『宗みんの滝』、同31年『井戸の茶碗』と『幾代餅』である。
何れも好きな噺で、『中村仲蔵』は、何故か一回だったが、複数回見る事もある。
『百年目』は三回、『宗みんの滝』に至っては四回も見ている。

今年は、初日に『井戸の茶碗』を見ることにした。
トリの直ぐ前に高座へ上がるヒザ替りは、曲芸の林家勝丸さんだった。
曲芸は、曲独楽などは別だが、高座を片し、立って遣るのが一般的だ。
今回は、座布団に座ってである。
高座を準備する時間を、短縮したかったのかもしれない。
正座での曲芸は難しいらしく、苦戦しているように見えた。
ところが、正蔵師の楽屋入りが遅れたのか、曲芸が終わると思ったら、また、始めた。

『井戸の茶碗』は、知名度ベスト10に入る古典落語かもしれない。
正直者の屑屋さんが、浪人から買い取った仏像から、小判が出てきて大騒ぎになる噺である。
登場人物は実直な正直者ばかりで、誠に後味が良い。
仏像を買うのを一度は断る場面で、正蔵師は言い間違えた。
安く買い、高く売れて儲けるのも、高く買い、安くしか売れなくて損するのも、共に嫌だという趣旨を言うべきだった。
売るのと、買うのを、逆に言ってしまったのだが、正蔵師は平然としていた。
前座が、この類の間違いを遣ると、しどろもどろになる事が多いが、その意味では流石に真打だ。
この日、一緒だった落語初心者の同級生に訊いてみると、間違いに気付いていた。

終演後、愛煙家の同級生は、喫煙室へ入ったので、演芸場を出るのが少し遅れた。
正面玄関を出ると、楽屋口から出てきた、黒いスーツに着替えた正蔵師と鉢合わせした。
手ぶらだったから、荷物は、お弟子さんが届けるのだろう。
急いでいる様子なので、「お疲れ様でした。良かったですよ」とだけ、声を掛けた。
「有り難うございます」と、歩きながら言って、腰を低くしてお辞儀を返してくれた。
表通りに出た正蔵師が、タクシーを止めるのが見えた。

聞いたばかりの、マクラが蘇った。
この日、国立演芸場の前で、二人の御婦人に「どちらへ」と、声を掛けられたそうだ。
「お客さんに、声を掛けられるのは嬉しい」と言ってから、「『どちらへ』って、国立演芸場の前ですからね・・」と続けて、客を笑わせた。
私は、手間を取らせなくて良かった。
でないと、次の席で、「急いでいたのに、国立演芸場の前で、高齢の男性に呼び止められ・・」などと、言われてしまうかもしれない。

   *****

写真
4月1日(月)の国立演芸場の玄関と演題



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