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パトラッシュが駆ける!

火宅の人 

2018年11月17日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「向井のやつは、今回も欠席か?」
「同期会どころじゃないようだ」
「悪いのか?」
「ステージ?だって聞いた」
「誰から?」
「本人が言った。今は、全部告知するらしい」

人生は、皮肉なものだ。
頑健で、およそ病気とは、無縁であった向井が、
この両三年、入退院を繰り返し、
虚弱で、医者通いの多かった私が、息災に暮らして居る。

「あいつ、重病人のくせに、厄介な問題を抱えてな」
「あれか……」
「うん」
半沢が、小指を一本、立てて見せながら、頷いた。

「あの女はやはり、良妻には、なり得なかったか……」
「病院にも、ろくに、顔を出さないらしい」
「あの時俺は、向井に言ったんだ。
中国人なんか、やめとけって」
「俺だって言ったよ。お前、女房を亡くして、
寂しいかもしれんが、
一時の感情に溺れちゃ、いかんよって」
「早く言えば、色仕掛けだったんだろ、あれは」
「まあ、女だって、必死だったろうからな」

この国に住みたい外国人は、ごまんと居る。
永住資格を得たい。
そのためには、日本人と結婚するのが、最も手っ取り早い。
そこに、ちょうど、寂しい男が現れた。
酒が好きで、しばしば店に来る。
金払いもいい。
女にとって、彼は、棚から牡丹餅どころではなく、天から、
宝くじの当り券が、降って来たようなものだったろう。

「で、向井は、どうするつもりなんだ?」
「離婚を考えている」
「それがいい。別れちまえばいい」
「しかし、女が応じない」
「目当ては、金か」
「あいつの資産と言ったって、住んでる、
マンションくらいだけどな」
「預金だって、あっただろ。あいつは、自社株だって、
結構持ってたんだから」
「退職時に清算し、預金に替えたようだ。
しかし、それも、いくら残っているか……
どうも、中国に流れているらしい。
彼女、年に一回は、帰郷しているからな」

糟糠の妻ではない。
しかし、十五年も一緒に、暮らした仲ではないか。
女だって、最初は打算であったとしても、
同衾を重ねているうちに、愛情が湧かないものだろうか。
私には、その辺のところが、よくわからない。

半沢は、強硬手段に訴えろという。
向井の身体が、何とか持っているうちに、
マンションを処分し、その金を一人娘の、詩織ちゃんに、
渡したらどうかと、提案している。
半沢と向井は、社の同僚という以上に、親しい仲であった。
詩織ちゃんに、社の後輩を紹介したのも彼だ。
結局、その縁談はまとまらなかったのだが、
彼女は他の男性と結婚した、今になっても、
「半沢のおじさん」と呼んで、彼を敬慕している。

「でもなぁ……」
「でも、何だ?」
「向井のやつ、売却に踏み切れんのだよ」
「何で?」
「生きてるうちに、修羅場を見たくない……ってところかな」
「死んだ後なら、いいってわけか?」
「よくはないが、仕方ないってところかな」
現役時代、果断に物事を処理して来た向井が、
すっかり優柔不断になっている。
病気により、かくも気弱になるものか。
それとも、かすかにでも、今の女房に未練があるのか。
私にはわからない。

「向井のやつ、こんなこと、言ってたよ」
「………」
「いい思いも、したからって」
「女のことか?」
「まあ、そうだ」
「女には、もてたからな、向井のやつは」
社の女性達からも、人気があった。
顔が引き締まっている。
凛々しい。
これを「苦み走った」ということも出来る。

「あいつなら、遊び相手は、いくらでも居ただろうに」
「そうなんだ。外で、好きなだけ遊んで、家では、
亡き妻の菩提を弔い、良き父親を、全うしてほしかったな」
「晩節を汚したか」
「汚したどころじゃない。可哀想だが、今や火宅の人だ」
「なまじ、女にもてない方が、いいかな」
「いや、それは違う。どうせなら、もてた方がいい。
但し、もてなくても、それなりの人生は、送れるってことさ」

これ、私のことである。
もてない男の、代表である私は、
一遍、嫁さんを娶っただけで、もう十分と思っている。
そして多分、妻より先に死ぬだろう。
汚すほどの、節もない。
いっそ、さばさばしたものだ。

「出るんだろ、同期会」
「出るよ、もちろん」
「二次会は、予定していない」
「わかった。それでいい」
予定がなくても、カラオケくらいは、きっと行くことになるだろう。

向井の訃報が届いたのは、それから、半年後であった。
「ご交誼を頂きました、父、向井寿郎が永眠いたしました」
で始まる挨拶状は、詩織ちゃんの名で、出されていた。

故人の遺志により、葬儀は行わず、遺骨は、今流行の、
樹木葬に付しましたと、簡潔に記されていた。
相続の問題は、結局、弁護士を立て、
今後に解決を図ることになるだろう。
と、これは半沢が伝えて来た。

いい歳をして、再婚なんか、するもんじゃない。
ということを、私は「紀州のドンファン」なる男が、
死んだ時に思った。
今また、向井の死を見て、思わされている。
でも、男はいざとなると、意気地がないのだな……
一人で生きて行くのが、きっと、辛かったのであろうな……
ということも、思い知らされている。



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小説か映画に

パトラッシュさん

なりそうですね。
彼方此方さん、書いてみませんか?

2018/11/19 08:47:58

集まって

さん

情報交換するようです。

2018/11/19 06:34:36

グループですか……

パトラッシュさん

彼方此方さん、
それは驚きました。
作戦会議か何か、開くんでしょうかね……

2018/11/18 17:38:55

近所に

さん

後妻業グループ、5,6人いますが。日本人です。
元、子どもの小学校のママ友だそうです。

2018/11/18 07:29:11

人生いろいろ男もいろいろ

パトラッシュさん

漫歩さん、
弱きもの、それは男なり。
とは言うものの、一方で、再婚せず、立派に家庭を維持している男もまた、たくさん居るわけでして……
漫歩さんも、そのお一人。
お勁いですよ。

2018/11/18 07:12:04

男は弱いもの

漫歩さん

ー 男はいざとなると、意気地がないのだな……
一人で生きて行くのが、きっと、辛かったであ   ろうな……

私は再婚せず今も男寡ですが、この言葉は実感を伴って胸に響きました。

2018/11/17 16:35:22

そうですね

パトラッシュさん

Babanさん、
中途半端がいけませんね。
どうせなら、日本人にもててほしかった。(笑)

しかし、娘さんは、孝行でした。

2018/11/17 16:00:04

娘さん偉いですね。

さん

普通、再婚すると、実子には見捨てられてますもんえ。
半端にもてると、昔の夢が忘れられないから中国人なんかにひっかかるんですね。

2018/11/17 09:19:34

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