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敏洋’s 昭和の恋物語り

えそらごと (十八) 

2018年10月09日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 期待通りにスピードが乗ってきた――と彼は思ったのだが、貴子から冷たい言葉が放たれた。
「遅いわね、もっと出ないの!」
「そんなご無体な! これ以上エンジンを回したら、壊れちゃうよ。
それとも貴子お姉さまが降りてくれますか? 
そうしたら軽くなって早く走れるかも」
と、悪態をついた。

「言ったわね、このナルシストが」
(真理子ちゃんにもこんな風に掛け合えたらなあ、打ち解けられるんだよな)
そんな思いが彼を襲う。
信号待ちに入ったところで、意を決して真理子に声をかけてみた。

「真理子ちゃん、どこか行きたい所ある?」

 突然の振りに驚いた真理子からは言葉が出ない。
まだ意思疎通がうまくいっていない二人だったんだと、唐突過ぎた声かけを悔やんだが、今さらどうにもできない。
自らの失策で暗闇に放り込まれた彼だった。

真理子にしても己の無言が、ひまわりの咲き乱れていた野原から一転して空っ風が吹きすさぶ荒廃した地へと変えてしまったことで暗(あん)澹(たん)たる気持ちを抱えていた。
しかし、急に声をかけてくるから……と逃げ場を求めた。

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