メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

当節閉店事情 

2018年08月11日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「居抜き」とは、店舗の設備をそのままに、
次のテナントに、貸し出すことであり、
新旧の賃借人、そして、大家にとっても、
損のない「三方一両得」の、便法と思われる。
スナックバーなどの場合、客がキープしてある、
ボトルまで、新店が引き継ぐという話もある。
だから鯛新の閉店も、てっきり「居抜き」で、
行われるであろうと思っていた。

そもそも、鯛新が店を開いた、二十二年前が、
それであった。
同じ小料理屋の後を継ぎ、もちろん、
看板は付け替えたけれど、店の構えも何も、
そのままに開店した。
前の店が、数年で撤退したのに比べ、鯛新は繁盛した。
味がよかったからであろう、そして、
店主夫妻の人柄がよかったからであろう、
すっかり、この町に、根付いた感があった。
「辞める?……あの鯛新が?……」
私は、閉店の情報を聞いた時、にわかに信じられなかった。
「二十二年?……」
よく考えれば、確かに歳月が経過していた。
私は、名残りを惜しみ、閉店の数日前に、鯛新に行き、
最後の飲食をさせてもらった。

七月末をもって、閉店し、その三日後には、
もう鯛新では、工事が始まっていた。
職人が何人も入る、大工事だ。
カウンターは取り壊され、床は剥がされ、
コンクリートが剥き出しになってしまっている。
安くないだろうな、工事費は……ということを、
元商人としては、すぐに考える。
賃借人であった、鯛新が負担するのであろうか……
閉店とは、ただでさえ、辛いことだ。
そこに、金銭的負担までかかる。
店主夫妻、意気消沈していないだろうか……
店の前を通る度に、気になっていた。

しかし、一週間後に会った、大将も、女将さんも、
意外に屈託がなかった。
「お世話になりました」
何時も通りの、にこやかな挨拶が返って来た。
「いや、どうも……」
世話どころか、不義理の多かった私は、返す言葉もない。
夫妻には、小学五年生と、幼稚園児の子がいる。
人生まだまだ、先が長い。
一家のこれからに、幸あれと祈るよりない。

 * * *

私もかつて、閉店を経験した。
父から引き継いだ、金物店を閉じた。
それまでに散々、自問自答を繰り返したからであろう、
迷いも感傷もなかった。
私には、男の子が居ない。
いや、居ても、店を継がせられたかどうかだ。
個人商店が生き延びて行くのに、厳しい時代である。
「屋」の付く店が、次々にシャッターを閉じつつある。

私は、割り切って「明るく楽しい」閉店をしようと思った。
金物店の閉店で、ネックになるのは、その厖大なる在庫商品だ。
これを処分しないことには、閉店に至らない。
二割引きから始め、三割引き、五割引きと進み、
最後は「ご自由にお持ちください」をやった。

それでも余るものがある。
ゴミとして、捨てたものもある。
記念に取っておこうか……で、
今も倉庫に眠り続けているものもある。
因果な商売だなと思った。

しかし、友人の吉田屋から、言われた。
彼は、米屋を経営していた。
そして、私と相前後して、その店を閉じている。
「精米機を処分するのに、いくらかかったと思う?」
「十万か」
「いや、0が一つ違う」
特殊な器械だけに、車を処分するようには
行かないのだと、こぼした。

設備の廃棄、これが閉店のネックになる。
そう言う商売は、他にもある。
肉屋、魚屋がその代表だ。
冷蔵、冷凍ケースなど、開店に際しての、
その設備投資額は、半端ではない。
そして、閉店になればなったで、今度はその、
処分費がかかる。
泣きっ面に蜂とは、このことであろう。
私はまだ、金物屋でよかった。

お金を出してまで、店を閉じるのは、辛いことだ。
だから「設備や器械が壊れたら」それを汐に、
閉店しようとする店も、少なくない。
早く壊れないかなぁ……と、その日を待つケースも出て来る。
皮肉なもので、待っていると、これが容易に壊れない。

 * * *

十日後、鯛新の看板は、撤去された。
店内はもう、さながら、廃墟のようになっている。
店と言うものは、落飾すると、こうも輝きを失うものか。
使える設備や什器が、たくさんあっただろうに、
もったいない。
叶うなら「居抜き」これが、合理的でよろしいではないか。

私は今、囲碁サロンを経営している。
後継者は居ないから、いずれ閉鎖を余儀なくされるだろう。
しかし、金物店ほどの、苦労はない。
何しろ、設備と言えば、碁盤が三面に、
将棋盤が一面である。
売れはしないだろう。
しかし「ご自由にお持ち下さい」をやれば、
希望者があるのでは、あるまいか。

それよりも「人生の閉店」この方が気になる。
きれいさっぱりと、この世を去りたいものだ。
身軽な方が良い。
余分なものは、極力捨てようと思っている。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

アルバムごと捨てました

パトラッシュさん

まはろさん、
確かにさびしいですね。
私も迷いました。

しかし、振り返って見ると、私は父母の遺した写真を、結局は捨てました。
何時まで保管しておいても、きりがないと思ったからです。
私の写真も、子供が持て余し、捨てることになるでしょう。
それならば、いっそ、この手で……と思いました。

その時は、清水の舞台から、飛び降りるような気持でしたが、捨て去ってしまうと、案外さばさばしております。

2018/08/12 09:04:32

人生の閉店

まはろさん

何時も興味深いお話ありがとうございます
最後の人生の閉店今の私にはぴったりなのです
身軽にと思って余分のものは捨てようと思いながら
中々捨てきれない思い出の品物困っています
今は写真から捨て始めました 一寸寂しいです

2018/08/12 06:00:52

それは困りますよね

パトラッシュさん

喜美さん、
そりゃ、癌と診断されたら、焦りますよね。
後継者がいなければ、事業は止めなければなりますまい。
今さら、癌じゃなかったと言われてもねえ……
惜しいことをしました。

2018/08/11 13:36:57

本当に

パトラッシュさん

漫歩さん、
栄枯盛衰は、この世の習い。
栄える店あれば、廃れる店あり、
仕方ないことですね。
味の良い、そして、雰囲気の良い店だっただけに、惜しまれてなりません。
良い顧客ではなかった、私を棚に上げてです。

2018/08/11 13:33:22

思い出しました

喜美さん

我が家は運送屋でした
主人癌だと診断されたとき
其のころは癌は死ぬと思っていました
仕事やめる事主人と病院で決め(主人は60歳 私が会社の事全く知らない)全部土地から車まで売ってしまいました後悔しました 主人は癌ではなかったのです

2018/08/11 10:22:18

さっぱりして〜

漫歩さん

世の中は、日々留まることなく動き続けています。
何かが消え、何かが出来る。その繰り返し。

想えば儚いものです。


パトさんの文末の言葉は、私の終活です。

2018/08/11 09:36:27

PR







上部へ