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吾喰楽家の食卓

柳田格之進のルーツ 

2018年06月14日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

落語には、“三ボウ”といって、泥棒、けちん坊、つんぼう(つんぼ)が、頻繁に登場する。
“三ボウ”は、寄席に来ないから、悪口を云っても構わないという発想である。
泥棒が寄席に紛れ込んでいても、「俺の悪口を云うな」とは、抗議できない。
けちん坊は、木戸銭を払ってまで、笑いに来ないはずだ。
つんぼうは、近年、手話落語があるし、補聴器を使っている人も居るから、いささか問題がある。
現に、私は、補聴器の愛用者だから、つんぼうを笑いのネタにされると、良い気はしない。
その点、『柳田格之進』は、善人しか登場しないのがいい。

月見の晩、浪人中の柳田格之進は、碁仇である大店の主人の家で碁を打っていた。
対局中の座敷から五十両が消え、番頭は格之進を疑った。
番頭は、主人の意に反して格之進を訪ね、金のことを問い、見付からなかったら奉行所へ届けると云った。
格之進は、疑われるだけでも不名誉と思い、金を渡すことを約束した。
翌日、娘を遊郭に売って得た五十両を、「もし金が出たら、番頭と主人の首を貰う」と云って、番頭へ渡した。
後日、疑いが晴れた格之進は、約束を実行すべく大店を訪ねた。
格之進は、主人と番頭が互いに相手を庇うのを見て、二人の首の代わりに碁盤を真っ二つにした。

風流寄席で、三遊亭鳳楽の『柳田格之進』を、聞いたことがある。
鳳楽師の大師匠は三遊亭圓生、馬生師のそれは古今亭志ん生である。
云うまでもなく、圓生と志ん生は、“昭和の名人”と呼ばれている噺家だ。
鳳楽師と馬生師を聞き比べるのは、昭和の名人対決の現代版と思ったが、そういう構図ではないらしい。
圓生の持ちネタをまとめた“圓生百席”に、『柳田格之進』は含まれていないのである。
実は、『柳田格之進』は志ん生の十八番で、息子の先代馬生と志ん朝でさえ、父親の存命中は、この噺を高座に上げなかったらしい。
それ程だから、圓生も、志ん生に遠慮したことは、想像に難くない。

鳳楽師の『柳田格之進』は、誰の型なのだろうか。
大師匠の圓生でないとすれば、師匠の先代圓楽と考えるのが、順当だろう。
この噺は、先代圓楽が、好んで高座に上げていた噺らしい。
では、三遊亭と古今亭の『柳田格之進』は、何処が違うのか。
今回、馬生師は、格之進が碁盤を切ったところで、「先代はここで噺を終えました」と、一度は噺を止めた。
ところが、「今日は、特別に先を遣ります」と、噺を続けた。
番頭と格之進の娘は夫婦(めおと)になり、二人生まれた男子を、それぞれ、柳田家と大店の跡取りにしたという、ハッピーエンドだった。

鳳楽師も、ハッピーエンドで口演した。
碁盤を切って噺が終わるのも悪くはないが、それでは格之進の娘が可哀そうすぎる。
ダラダラと続ける必要はないが、善人の幸せを願うのは人情だろう。
今回の馬生師と風流寄席の鳳楽師を比べると、語り口は異なるが、噺の構成は似ている。
風流寄席の宴席で、鳳楽師から、「(先代の)馬生師匠から、落語を教えて貰ったことがある」と、聞いたことがある。
もしかしたら、『柳田格之進』は、鳳楽師と馬生師でルーツが同じかも知れない。
云うまでもなく、先代金原亭馬生のことだ。

   *****

写真
6月13日(水)の昼餉(手作りの稲荷寿司)と夕餉(庭の茄子とピーマンの油味噌)



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パトラッシュさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

仰せの通り、落語には誇張もありますが、虚構もありますね。
それはそれで、面白いのですが。

志ん生の『柳田格之進』を、YouTubeで聞いてみました。
先代馬生、志ん朝、先代圓楽のもあったので、時間を見つけて聞き比べたいと思います。
何れの師匠も故人です。
一度でよいから、実演を聞いてみたかったです。

2018/06/14 08:34:04

落語だからいいけれど

パトラッシュさん

碁盤は、刀では切れません。
鉈でだって、真っ二つなんてことは、無理無理。
そこは落語、噺を面白くするために、一刀両断にしたかったのでしょう。

芝居でもあります。
こちらは、刀よけに使う。
片手でひょいと持ち、切りかかって来た刀を受ける。
本物の碁盤は、重くて、とても片手で持てません。
まあ、誇張はどこの世界にも、あること。
目くじらを立てることは、もちろん、ありません。

志ん生への圓生の遠慮、よくわかります。
いずれ劣らぬ、名人同士。
そこに互いの芸への、尊重があったのでしょう。
末流に至って、その垣根が消滅した。
そこで、私達は、馬生と鳳樂の「柳田格之進」を聞き比べることが出来る。
これもまた、落語ファンにとって、一つの幸せです。

2018/06/14 07:40:50

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