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パトラッシュが駆ける!
山荘のYesterday(後)
2018年04月07日
テーマ:テーマ無し
関西人はね、偽悪者なんですわ。
「わいは、こんなこと、やってまんねん……」と、
そのドジぶりを語れば、相手が安心します。
「実は、わいもやねん」
相手も、腹を割ってくれる。
ある種の策戦、生活の知恵として、古い歴史があります。
「もうかりまっか?」
「ぼちぼちでんな」
これで、相手を安心させ、友達になるわけです。
そこへ行くと、東京は建前社会です。
江戸幕府が開かれて以来の、長い歴史が、そうさせてしまった。
それは、身分社会であり、上下関係が全てだったからです。
但し、関西にも、バージョンは二つあります。
大阪と京都です。
でも、大阪人から見たら、東京も京都も、
建前が優先するところにおいて、同じです。
大阪人と京都人?
いや、別に、仲が悪いわけでは、ないですよ。
京都にかて、知り合いはいてます。
京大阪、それぞれに、生き方がある。
但し、関西人として、東京に対する場合は、仲間です。
その根っこは同じですから。
* * *
先輩の弁舌が、止まらなくなった。
文化論は、彼の得意分野だ。
彼は、大阪の船場に生まれ、育った。
本音で生きる。
それこそが、おのれの人生だと思っている。
その裏返しで、建前を嫌う。
東京人の私とは、そこにおいて、体温の差が大きい。
「あなた、自分に正直じゃないよ」
「世の中は、直截な物言いだけで、通るもんでもありません。
時には、遠慮や妥協だって、必要でしょ」
「でも、言うだけは、言わにゃ」
「人それぞれです」
他人から、自分の生き方を、とやかく言われる筋合いはない。
先輩と言えども、僭越が過ぎる。
自説を尊大に振りかざすなら、もう二度と、来てやるものかと、
思ったりする。
先輩に、初めて会ったのは、七年前の、
四国の遍路旅の途上であった。
室戸岬近くの宿で、一夜を共にした。
その時も、一杯飲みながら、旅を語った。
旅を語る、それは、人生を語ることでもある。
旅人は、朝が早い。
早く寝なけりゃと思いながら、つい、夜更かしをしてしまった。
互いに、本を出版していることが判明し、その話になった。
歳は、私より上、出版した本だって、はるかに多い。
だから、私は彼を、先輩と呼んでいる。
以来、縁が切れないでいる。
毎年のように、会っている。
東京で、関西で、信州の彼の別荘において。
そして、会う度に、腹を立てている。
原発に対する賛否、アベノミクスに対する評価など、
真っ向から対立することも、少なくない。
あの美空ひばりだって、私は、先輩のようには、嫌っていない。
戦後の世の中が生み出した、ある種の必然だろうと思っている。
「あなた、もう、先輩のところへは、行かないって、
言ってたじゃない」
今回も、出かける前に、妻から、嫌味を言われた。
確かに言った。
「もう、懲りたはずじゃ、なかったの?」
その通り。
毎度、懲りている。
しかし、これが不思議なのだが、時が経つと、
その時の憤懣が、薄れてしまう。
それどころか、あの、ヒットラーのような鼻髭と、
その頑固な理屈が、妙に懐かしくなっている。
そして、もう一つ。
あの先輩が、この私を見込んだということがある。
あいつなら、相手にとって、不足はない。
と思うからこそ、毎年毎年、私に、声をかけるのであろう。
ならば、応じてやるのが、男の取るべき道ではなかろうか。
その証拠に、先輩は今日も、何度か言った。
「泊まってけば、いいじゃないか」
私とのディスカッションが、六時間やっても、
まだ、足りないと見える。
「そうも、行きませんでね」
「奥さんに、電話すりゃいい。
飲み過ぎて、電車に乗り遅れた……とか言って」
「えへへ……」
私は、曖昧に笑って誤魔化した。
これを、関西風なら「いや、帰りまっせ」と、
はっきり断るのであろうけれど。
踊り子号は、まだ来ない。
私は、ベンチに座り続けている。
先輩の運転には、悠揚迫らぬものがあった。
黄信号に直面しても、無理に突っ走ることをしない。
多分、後期高齢者たるを、自覚しているのであろう。
脇道から、本線に入ろうとする車があるや、
鷹揚に道を譲ってあげる。
それは、美しい光景と言えなくもない。
しかし何も、この私を、送り届ける際に、美風を示さなくても、
よいではないか。
踊り子号の、発車時刻は伝えてある。
二度も三度も、言ってある。
間に合うかどうかの、今は瀬戸際にある。
それなのに、直線道路でも、スピードを上げなかった。
もしかしたら……
私を、列車に、乗り遅れさせたかったか?……
乗りそびれ、気の変った私が、やっぱり泊まって行くと、
言い出すのを、そこらで、買い物でもしながら、
待っているのかもしれない。
そこに、故意はなかったかもしれない。
しかし、未必のそれくらいは、あったかもしれない。
その手に乗るもんか……
私は、こうなったら、意地でも、次の踊り子号に、
乗ってやろうと思っている。
電車は、来ない。
付近に人はいない。
Every sha-la-la-la
Every wo-wo
Every sing-a-ling-a-ling
私は、山荘で聞いた「Yesterday」の一節を、
つい、口ずさんでしまっている。
カーペンターズは、嫌いじゃない。
先輩の好きな、中島みゆきも、然り。
悔しいが、共通するところも、また多い。
私は、先輩との縁を、簡単には切れそうにない。
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ごもっとも
澪つくしさん、
地方に行くと、なんとなく、ほっとすることがあります。
方言のせいもあるでしょう。
多分、皆さんが、本音で喋っていると、こう推測されるからです。
東京が堅苦しいのは、異郷人の集まりであるから……かもしれません。
うっかりすると、後ろからばっさり……
なんてことを、恐れているかから……
かもしれません。
私は、大阪弁も、名古屋弁も好きです。
出来ることなら、真似したい。
しかし、それは、英語をしゃべるより、難しいようです。
2018/04/08 14:15:23
建前社会の東京
パトさん
前・後編とも軽妙な語り口に、楽しく読ませて頂きました。
私は生まれは東京、育ちは名古屋、流れ流れて(東京経由で)湘南へ・・・
40年近く経った今でも、どうも東京の建前社会には馴染めない所があります。
気質的に大阪人の方が合うような気がするのは、名古屋と言う土地柄がある意味大阪に近いのかと感じます。私の育った頃はという事ですが・・・
建前社会では本音を言ったら、ひと騒動起きかねませんので、砂を噛む思いは度々・・・(これ、本音!)
2018/04/08 11:32:26
得難き関係
読み終えて、向田邦子の「あ・うん」を思い出しています。
戦友が親友になった二人の関係は、パトさんと先輩の関係や状況とは違いますが、ご両所の心奥には似た部分が感じられて興味深いものがありました。
先輩の運転に共感を持ちつつ、かのお人に好感を感じています。
これから先ずっと縁を切らないでください。(笑)
2018/04/07 11:37:25
十人十色
おはようございます。
もしかしたら、百人百色かも知れません。
でも、親友って、意外なことに、性格が大きく異なる組合わせが多いんですよ。
何れにせよ、互いの違いを認めないといけないと思っています。
2018/04/07 09:18:25