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朝のモーツァルト 

2017年07月17日 ナビトモブログ記事
テーマ:シニアライフ

最近、食事時には、音楽を聴く事にしている。


朝食時には、プリンツが吹く、「モーツァルトのクラリネット協奏曲イ長調」

夕食は、エラ・フィッツジェラルドと、ルイ・アームストロングの、ジャズだ。


ジャズのCDは、主人が買ってきたもので、よく夕食の後にワインなど飲みながら聴いていた。


テーブルの上を片付けて、殆どの電気を消して、いくつかのキャンドルを、部屋中に灯したのだった・・。


ヨーロッパのレストランでよく見かける、テーブルに置かれたローソクの炎が、不規則にゆらめく情景に、当時魅せられていたのだった。


我が家は高台にあるので、遠くには夜景も見えて、そんな中で、しっとりとジャズを聴いた。

そういった夜のひとときを、我が家では「キャンドル・サービス」と呼んでいた。


それが・・。

何年も過ぎると、周りの木がどんどん成長してきて、それまで遠くに見えていた風景を、すっぽりと包み込んでしまったのだ。


それも、理由だったろうか。

いつからか、我が家の「キャンドル・サービス」は、忘れ去られた存在となった。



モーツァルトは、私の愛用盤だ。

レコード演奏盤の、CD化。


私が、ウィーンに留学した頃、ウィーンフィルのトップ・クラリネット奏者のアルフレート・プリンツは、花形だった。


ウィーンフィルの奏者達は、ベースがウィーン歌劇場のオーケストラ団員だから、夜にオペラを見に行くと、プリンツもオケ・ボックスでよく吹いていた。


プッチーニのオペラ「トスカ」でのプリンツは、ちょっと忘れられない。

第三幕に、「星は光リぬ」という、有名なテノールのアリアがあるが、アリアを誘い出す様に、まずクラリネットが同じメロディーを吹く。

あの朗々と歌い上げる、いかにもプッチーニらしい美しい旋律を、プリンツは、独特の見事な音色で、細く淡々と吹く。

ああ、これがアンサンブルというものか。


私の人生で、それは、忘れられない演奏の一コマとなった。


あるとき、上野の文化会館で、プリンツがブラームスのソナタ1番と2番の両方を演奏するという、チラシを見つけた。

この曲は、私も若い頃友達と一緒に勉強した、思い出の曲である。

ところが、チラシをよく見ると、プリンツが演奏するのは、ピアノパートなのであった。

ソロのパートには、彼が信頼している日本人クラリネッティストの名前が書かれていた。

これが、ヨーロッパの、層の厚い音楽社会と言うものなのだろうか。


クラリネットソナタ、と呼ばれる曲達は、クラリネットとピアノがお互いに殆ど同じ位の重責を持って、一つの音楽を作り上げていく。


だから、独奏楽器の名手が、自分自身でピアノのパートも弾けるのなら、相互の視点からアプローチしていくわけだから、これぞ、アンサンブルの極みとも言える。


実際に聴いた、プリンツのピアノは、クラリネット奏者をたてるかの様に、実に穏やかだった。


そして、結局それは、オペラのアリアを誘い出す様に吹いていた、あの淡々とした旋律と、スタンスにはなんら変わりが無かったのだ。



毎朝、私はそのプリンツを聴きながら、一日を始める。



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