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敏洋’s 昭和の恋物語り

[宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (五) 

2017年04月08日 外部ブログ記事
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 その日は風のひどい日で波も高く、西の方から黒い雲が近づいてきている。
浜から見る山は雨になっているのか、煙った状態になっていた。
「やまにはぜったいにはいるな。とてつもないけものがいっぱいおる、おとなだってはいらんぞ」

 口酸っぱく言い聞かされたごんすけには、山中に逃げ込むのが助かる唯一の道だと思えて、うっそうと茂った樹木の間を―けもの道を走った。
時折木の根やら草に足を取られそうになりながらも、走り続けた。

 ガサガサと音がする度に、生きた心地がしない。
地面に伏してじっと辺りを伺い、風のいたずらだと分かるまで、じっと伏せた。

 幾度か繰り返す内に、辺りが次第に暮れてきた。
どこをどう歩けば麓にたどり着けるのか、さっぱり見当が付かない。
来た道を戻ろうにも、それすら分からなくなっていた。

 今さらながら山の中に逃げ込んだことを後悔した。
あのまま浜辺沿いに進み、大きな川を渡りきってしまえば諦めてくれたのではないのか、そんな思いが消えなかった。
ひくひくとしゃくり上げる自分を、泣いても誰も助けてくれるもんかと叱りつけるが、涙は止まらない。
山を下りればいつか麓に着くんだと己に言い聞かせながら、ただただ歩き続けた。

「ごんすけ、こんなところに居たか。よしよし、よく頑張った。さあ、一緒に来い」
 ごんたに泣きつかれた僧侶が声をかけた。
「おねがいです。にしのほうに、なんばんじんたちがやってくるみなとがあるとか。ごんすけをなんばんのちにもどしてやりてえ」

 ごんたの、苦渋の決断だった。
「ごんすけはおれのこじゃねえ。なんばんじんのこだ。かえしてやるのが、ほんとうだ。
ここにいては、いつまでもいじめられつづけるだけだ」
「おうめ婆が死んで、もう二年の余か。
よう頑張った。よくぞここまで育てたものじゃ。
任せなさい。ごんすけの行く末は、拙僧が見届けてやろう。
心配いらんぞ」

 背を丸めて大粒の涙を流すごんたに、やさしく声をかけてやった。
「もしも、もしも…。ごんすけがかえりたいというたら、もうこのむらにはおらんというてください。
たたきだされてどこかにいってしもうたと」
 低くくぐもった声に、再度聞き返した。

「二度と会わぬということか」
「あゝ、そうですに。おうてしもうたら、にどとてばなせなくなるきがする」
 今度ははっきりとした口調で、吹っ切れたように言った。
「よし。その覚悟や良し、だ」

 十年の余を寺で過ごしたごんすけだったが
「和尚さま。わたしは、僧侶には向いておりませぬ。お許しください」
と、書き置きを残して寺を出た。

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