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吾喰楽家の食卓

桂歌丸の高座復帰 

2016年08月13日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

国立演芸場8月中席は、歌丸が怪談噺を口演するのが、恒例らしい。
真打トップバッターの小南治は、昨年と同様、今までに貰った8月中席の大入袋の束を披露した。
今年も、十一枚増えるはずだ。
各出演者は、マクラの中で色々な形で歌丸に触れ、気分を盛り上げていた。
極め付けは、中トリの小遊三である。
「歌丸師匠の十三回忌にようこそ・・・。先ほどご本尊の生存確認をしてまいりました」とやったものだから、場内はどっと沸いた。

仲入り後は、座談から始まった。
幕が上がると、出演者は緋毛氈が敷かれた、三つの縁台に座っていた。
下手から、司会の小南治、小遊三、歌丸、圓楽、好楽の順である。
始めの内こそ、ぎこちない進行だったが、直ぐに話は盛り上がった。
歌丸は、朝食を食べないそうだ。
その代り、夜の10時頃に三食目を食べるらしい。
生家が横浜で遊廓を経営していたことから、そこでの食事習慣が現在に至っている。

最初の師匠である今輔との話は、興味深かった。
「お婆さんの今輔」といわれた、古今亭今輔(5)のことだ。
最近、パソコンで色々調べることは出来るが、やはり、関係者の口からじかに聞くのは一味違う。
歌丸は、圓朝作の怪談物を、今輔から教わったという。
今回の演題もそうだ。
今輔といえば、お婆さんが登場する新作落語しか聴いたことがない。
勿論、当時のことだからラジオである。
古典落語を止めたのは、群馬訛りが酷くて限界を感じたからだそうだ。
以来、新作専門の噺家になった。

座談では触れなかったが、歌丸は古典ばかりやっていたので、師匠と不仲になり、兄弟子の米丸の所へ移籍したのである。
米丸は、歌丸を自由にさせたという。
その米丸は90歳を超えているが、今でも現役で頑張っている。
「少なくとも、師匠の米丸を見送るまでは、現役で頑張って欲しい」という、小遊三の言葉で座談はお開きになった。

圓楽は、膝前として、良い仕事をした。
膝代わりの“まねき猫”のものまねも、気分がほぐれた。
準備万端、いよいよトリの登場である。
通常、国立演芸場の場合、持ち時間は前座、二ツ目、色物が15分、真打20分、中トリ25分、トリ30分だ。
民間の寄席は、もっと短いらしい。
ところが、今回の歌丸の持ち時間は50分もある。
圓朝作の噺は、とにかく長い。
そして、塩原多助のように、長いだけでなく、登場人物が多い噺もある。
その点、今回の『江島屋怪談』は、登場人物が少なくて解り易かった。
古着屋に、糊付けしただけのイカモノの婚礼衣装を掴まされた、可哀想な母娘の噺である。
婚礼の当日、衣裳は雨で濡れてバラバラになり、大騒ぎの末、婚約は破棄された。
死を選んだ娘の恨みを晴らすため、母親が江島屋を呪うという怪談噺だ。

マクラは、腸閉塞の話で始まった。
昨年も七月に腸閉塞で入院しているというから、二年続きである。
どういう病気か医者に訊いたら、「腸閉塞とは、腸が閉塞する病気です」は、何回も聞いている。
「腸閉塞とは・・」と始まったので、いつもと同じかと思ったが、今回は違った。
「痩せている人は、胃下垂になり易い。胃下垂になると、腸閉塞を起こし易くなる」と、続いた。
短いマクラを経て、本題に入った。
声に張りがあり、体調は良さそうだ。
満席にも関わらず、場内はシーンとして、皆、聴き入っている。
噺は、いよいよ大詰めに入った。
高座の照明が暗くなり、太鼓が一つ鳴った。
老婆(母親)の幽霊の登場である。
右隣の若い女性だと思うが、ギャッという悲鳴を上げた。
残念ながら、悲鳴だけで、抱き付いて来ることはなかった。
ほどなく、照明が明るくなった。
さらりと後日談を語り、噺は終った。
小一時間、歌丸の演じる怪談の世界に浸った。
大きな拍手が続いた。
幕が下りても、少しの間、拍手は続いた。

   *****

写真
8月11日(木)、国立演芸場の公演案内



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Reiさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

臨場感を覚えて頂けたとは、望外の喜びです。
私自身は、余り意識していませんでした。
未だに残る余韻に浸りながら、書いただけです。

最前列の、ど真ん中で観ていました。

2016/08/13 08:48:51

臨場感

Reiさん

おはようございます。

まるで自分もその場にいるような、臨場感のある文章でした。
本当に好きなことだから、細部にわたって記憶しているんですね。
自分も寄席に行ったような気持になりました。
ありがとうございます。

2016/08/13 08:35:12

パトラッシュさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

書くネタが多く、これでも、随分と端折ったのですが。
例えば、歌丸さんは、未だに新しい噺(勿論、古典落語)を覚えるべく、勉強しています。
また、司会の小南治に気を遣い、桂小南を襲名することを披露しました。
「小南は、大きな名跡なんですよ」と、付け加えていましたよ。

評論家って、イメージが悪いですよ。
何れも、単なる愛好家です。

2016/08/13 07:46:54

アンティスさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

長い噺、短い噺、色々です。
長い噺は、持ち時間に応じて、良い所だけ口演します。

「ウィッシュボーン」の声は、昇太でしたか。
覚えていません。

2016/08/13 07:39:36

いいですね落語は

パトラッシュさん

吾喰楽さんのブログにしては、異例の長文ながら、
演芸場の様子をレポートし、尚且つ、噺家を語って、読者を飽きさせません。
「蕎麦評論家」に加え「落語評論家」……
吾喰楽さんの進むべき道が、見えています。

2016/08/13 06:52:56

臨場感たっぷりで...

アンティスさん

おはようございます
落語って15分くらいかなぁと思っていましたが、そんなに長いんですねぇ。体力がいるはずですね。
笑点メンバーでは、福山雅治似の小遊三さんが好きですねー。昇太さんは昔「ウィッシュボーン」(NHKの海外ドラマ)の声やってましたね。
臨場感あふれる寄席のおはなし。ありがとうございます。

2016/08/13 06:44:10

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