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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港] (七十七) 

2016年07月15日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 生け垣に囲まれた店の入り口に通じる小径は砂利道だった。
アスファルトに慣れきった男にとって、歩きにくくはあるがノスタルジーを感じさせるものだった。
よろよろと歩く男に対して、麗子が笑みを浮かべながら「覚えてらっしゃらないのね」と拗ねた表情を見せた。

「時々、主人と来る所なんですの。とってもおいしい肉料理を食べさせてくれますわ。
あら、ご心配なく。主人は私の行動を十分わかってくれますわ。
いつも言ってますのよ。
『彼のおかげで、君を妻に迎えることができた、感謝しなくちゃな。
どこかで会ったら、この店でご馳走してやりなさい』と」

 男は、やり切れない気持ちだった。
すぐにも逃げ出したい心境だった。
思い出すことは、さすがに少なくなっていたが、幸せそうな姿を目の当たりにして、自分自身に対する怒りを覚えていた。
そして、自分を捨てた女に、いいように遊ばれているようで、どうにも我慢できなかった。
『彼のおかげで』という、紳士の言葉にも棘を感じた。

 しかし、食事の終わる頃には、紳士の言葉からではなく、真実懐かしさで男を招待したことがわかった。
「思い出した!」
男が突然に声を上げた。何事かと二人に視線が注がれた。
「断られた店だ」
麗子と初めてのデートで、「すてきなお店があるの」という希望で訪れた店だった。

「申し訳ありません、ご予約で満席でございます」
慇懃に断られた店だった。
空いている席があるのに、と不平を漏らす麗子に対して「ご予約を入れていただきたいと思います」と、軽い一礼の後にドアが閉じられた。
こんな店、頼まれても来やしないわよ! 憤然と言い放っていた麗子が、今、男を連れ立っている。

「鈴本です。予約していませんけれど、席はありますかしら?」
「これはこれは、鈴本さま。もちろんでございます。
どうぞこちらへ。いつものように奥がよろしゅうございますか、それとも海岸線の見えますお席が‥‥」
「そうね、今日は外が見える席にしていただこうかしら」

男に対する当てつけのようにも見える。
それなりのステイタスを持った客に対しては、こんな便宜を図ってくれるものなのよ、とでも言いたげな表情に男は感じた。

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