メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

人生いろは坂

向こう三軒両隣 

2016年04月01日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 「向こう三軒両隣」こんな言葉を知っている人も少なくなった。古きよき時代を
表した言葉だ。また、こんな言葉を知らない世代も増えている。地方都市にも
巨大なショッピングモールが次々と出来、その度毎に旧商店街は活気を失い
シャッター街が増えていく。太平洋戦争後から始まったあの元気だった街は
いったいどこへ消えてしまったのだろう。

 長屋住まいには、ねたみもあり悪口も日常茶飯事だったけれど、反面、お互いの
ことを気遣い、いったん事あれば長屋中の者が駆けつけてくれ何かと世話をしてくれる。
それが古き良き時代のごく当たり前の姿だった。

 魚の行商の千さんと言うおじさんは、毎日のように福山の鞆から魚を運んで
来てくれた。千さんは重荷用という普通の自転車より荷台が大きくて、頑丈な
自転車の荷台に、木で作った平たくて大きな箱を二段に積んで、福山からはるばる
大峠(おおたお)の坂を越えてやってきた。

 当時は冷凍庫などない時代なので、箱の中には氷が敷き詰められていた。
その氷も神辺に着く頃には、溶けて水となって箱の隅から流れ出ていた。
それでも魚は新鮮だった。その日の朝に市場に揚がった魚であった。

 千さんが来ると、近所の人が集まってきて、思い思いに注文し、その場で
捌いて貰って帰る。誰が何を買ったか一目瞭然であった。それぞれの家の
この日のおかずは、みんな分かっていた。

 そんな生活だったから隣近所で起きたことは、みんな知っていた。その上
主婦たちは、おしゃべり好きだから噂話は瞬く間に伝染し、どんなに離れていても
どこそこの誰それさんは等と噂し合っていた。良くも悪くも、そんな時代だった
から隠し事など出来なかった。

 子ども達もこうしたネットワークに守られて成長した。誘拐など起こりようが
なかった。学校の行き帰りに合うおじさんやおばさんもみんな馴染みであった。

 あるときなどは、道上の旧家の庭に80年に一度しか咲かないという竜舌蘭
(リュウゼツラン)の花が咲いたという噂話が飛び込んできて、真夏の盛りに
母や母の友達一家と歩いて見学に出かけた。あまりにも遠くて、たんぼ道で何度も
休んだ。その度毎に道ばたを流れている小川で足を冷やした。その水は格別に
冷たく澄んでいた。

 時間の流れも実に悠長であった。旧家近くまで行き、リュウゼツランの花を
少し離れたところから見て帰った。その日は、それで終わりだった。あれを見て
これをして等という贅沢はなかった。

 全ては質素で、それだけにシンプルだった。アイロンを使えばヒューズが
飛んでしまうような生活だった。電気の使用制限があったからだ。メートル器を
付けて自由気ままに電気が使えるようになったのは、ずいぶんと後のことであった。

 家の中には、裸電球一個と、唯一の娯楽設備であるラジオが一台、裸電球は
たった二部屋だけの家の中を移動させながら使っていた。食事の時は台所で使い
食事が終われば寝室兼居間に移動させた。

 冬になると、ご詠歌を詠うおばさんたちの一行が窓の外に来る。何と、もの悲しい
詠であろうか。炬燵一つの布団の中でご詠歌を聞きながらいつしかまどろんでいた。
目が覚めれば、すでに翌朝となっていた。

 街には八百屋、醤油屋、酒屋、魚屋、肉屋、米屋、呉服屋、洋品店、雑貨屋
文房具屋など実に様々な店が軒を連ねていた。これらの店は、互いに物の売り
買いをしながら生計を立てていた。

 主たる収入源は、地場産業であった機屋(はたや=布を織る工場)、染工場
糊付け工場、撚りこと呼ばれた撚糸工場だった。町には一枚の布を織るのに様々な
工場があった。

 こうして街はシンプルにまとまっており、互いを必要としながら生計を立てて
いた。お金は全て地域で回っていた。決して中央に吸い上げられて行くような
ことはなかったのである。

 私たちが生きて行く上で必要なシステムは全て整っていた。亡くなれば、近所の
人が寄ってきて葬式を出してくれた。みんなで悲しみ、野辺送りをしてくれた。
シンプルで分かりやすい人情あふれる生活がそこにあった。

 振り返って今の私たちに、そのような日常が残っているのだろうか。私は今
かつて北前船で栄えたという下津井地区で働いている。変化したとは言え
この地区には古き良き時代の人情が残っている。

 隣の出来事さえ分からないような時代に生きている私たちに、本当の幸せは
あるのだろうか。子育てをしていく上で最も大切だと思われるのは、人情あふれる
向こう三軒両隣なのだ。私は児島市民交流センター時代、それを目指していた。

>>元の記事・続きはこちら(外部のサイトに移動します)





この記事はナビトモではコメントを受け付けておりません

PR







掲載されている画像

    もっと見る

上部へ