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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港](二十五) 

2016年04月01日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 嫌な予感を感じつつ、部屋をノックした。
予想通り、
「遅いじゃないの!恥をかいたわよ、私 。時間通りに来てよ!」
と、ヒステリックに叫んだ。
さすがに男もムッときた。

「仕方ないだろう。今のプロジェクトがいよいよ大詰めなんだから。
上から、プレゼン用の企画を急いで仕上げろと言われてるんだ」
「だって、だって‥‥」と、麗子が急に泣き崩れた。初めてのことだった。
「おいおい、泣くなよ。悪かったよ、大声をあげて」

 男は背広を脱ぐ手を止めて、麗子を抱きしめた。
あの夜のように、震えている。男はうろたえた。
何か余程のことがあったのだろう。
「どうしたんだい、今夜は。さあ機嫌を直して。一緒にシャワーを浴びよう」

無言のまま、麗子は服を脱ぎ始めた。
やれやれ 、やっと機嫌が直ったかと、安堵したものの、その後のことを思うと気が重くなった。
今夜は様子が違っていた。
男の意に反しまるで反応がなかった。
人形に愛撫しているような錯覚を起こしてしまう。

「どうした、今夜はその気にならないのか?」
そんな男の問いかけにも 、麗子は無言だった。
半裸のまま、二人してベッドに腰掛けた。
二人とも黙りこくり、男は所在なげにタバコの箱を弄んでいた。

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