メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

十年一日 

2015年12月20日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

ポールが伸びる。
可動式ポールあって、するすると伸び、たちまち三階の屋上にまで達する。
その先端には、カメラが付いていて、その映像が、手元のモニターに送られて来る。
「特段の異常はありません」
建築会社の担当者が言う。
私にも、どうぞご覧下さいと言う。

あるもないも、私の目には、無機質なコンクリートが映っているだけだ。
その説明を信じるよりない。
ともかくも、ないに越したことはない。
もしも屋上に、異常ありとなれば、私は夜もおちおち、眠れなくなる。

建て替える前の、木造家屋はひどかった。
絶えず雨漏りがした。
屋根を複雑な形にしたのがいけなかった。
雨水がスムーズに流れない。

何度修理しても、漏りは止まらず、最後はもう諦めていた。
漏れ来る水を、天井裏で、ポリ容器に受け止め、
それが溜まると、手動のポンプで、外に排出する。
そんな姑息なことを、大雨の度にやっていた。

だから、建て替えをする時に、建築会社に確かめたものだ。
「雨漏りはしないでしょうね」
営業マンは、苦笑しながら「そう言う例は、ありません」と答えた。
それもそうだ。
「あります」というわけがない。

屋上といっても、要は平たい屋根のこと。
点検は、そこに上がり、目視でやるのだろうと思っていた。
三階のベランダから、梯子をかければ、簡単に上れる。
それで朝から、洗濯物も干さずに、待ち構えていた。

ところがどっこい、今は便利な時代だ。
点検担当者は、文明の利器を持参している。
外壁も何も、それで眺めまわし、作業は三十分ほどで終わった。

 * * *

早いものだ。
建て替えて、十年が経った。
この間に、屋上や外壁に問題があれば、それは建築会社の責任で直してくれる。
その保証期間が、これで終わったということだ。

前の木造建築には、二十九年間住んだ。
実を言えば、私はその家で、人生を終えるつもりであった。
ところが、ひょんなことから、建て替えの話が出た。
それがトントン拍子に進み、結局は私が、住み慣れた家の、
その末期を見届けることになった。

建築を始めたのが、死んだ母の、その歳と同じであった。
生きて無事に、竣工までこぎつけられるだろうか。
建築中は、そればかり考えていた。

新築が成り、そこに住み始めた。
想像した以上に、快適であった。
それもそうだ。
糟糠の妻と別れ、二十九歳若い、新妻を娶ったようなものだ。
見るもの、触れるもの、すべてが清新であった。

すると今度は、新たな心配が生じた。
私の周辺には、家を建て替え後、一年で死んでしまった者が居た。
口さがない仲間は、すぐに噂した。
「六十を過ぎて、建て替えなんか、やるもんじゃない」
「きっと、心労があったんだろうね」

同じ轍を踏んではならない。
物笑いになってはいけない。
慎重にも慎重を期して、その一年を過した。

石の上にも三年と言う。
その三年を過ぎた。
五年も過ぎた。
七年も通過した。
そしてとうとう、十年に達した。

 * * *

十年目を無事に迎えたから、良いというものでもない。
その間に、お前は何をやったか・・・
それが問題だ。

金物店を閉じ、囲碁サロンを開いた。
本を二冊出版した。
長距離の歩き旅を、何度かやった。
このくらいしか、思い浮かばない。
まことに片々たるものだ。

住むこと自体が、目的になっている。
そう言う感がある。
さながら、生きることが目的で、世に長らえているようのものだ。
陋屋に住んだ、二十九年。
あの方が、よほど人生を、豊かに生きていた。
良くも悪くも、濃密に生きていた。

快適な家と言うのも、考え物だ。
住む者の心を、内向きにさせる。
壮気を失わせ、客気を削ぐ。
「起きて半畳、寝て一畳」
創造の精神は「貧」あるいは、「無」から発するのではあるまいか。
今の私は、恵まれ過ぎている。

問題は、この先だ。
契約をすれば、もう十年、建物の保証が延長されるという。
十年後、またもや伸縮式のポールを持ち、彼らはやって来るだろう。
その時に、私が立ち会って居るどうかだ。

いっそ、あのカメラに、十年後の私が映らないだろうか。
そんな便利な器械はない。
それが見えれば、誰だって苦労はない。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

それはご謙遜

パトラッシュさん

プラチナさん、
創造性はありますよ。
川柳を見ていれば、よくわかります。

2015/12/21 06:45:08

豊と有を夢見て

プラチナさん

長年、貧と無で過ごして来ましたが、創造性は無く、諦めと切り替えの精神が身に付いてしまい、未だ貧と無を継続中です。

2015/12/20 22:22:40

後顧の憂いなく

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
築三十年にしては、きれいですね。
それこそ「終の棲家」として、十分に使えそうです。
亡き奥様の魂も、住み慣れた家に、あり続けたいことでしょう。

2015/12/20 20:19:46

わが家

吾喰楽さん

こんばんは。

わが家は建てて、30年が経ちます。
雨漏りこそありませんが、大分、ガタが来ました。
息子が住むのなら、直す張合いもあるのですが。
最小限の手入れで、住み続けるつもりです。

2015/12/20 18:59:38

後悔

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
そうですね。
言葉は便利、自分を励ます言葉は、必ず見つかります。

仮にキリギリスだとしても、今の世では、大威張りに生きて行けます。
長く「アリ的人生」を送ってしまった私は、少々後悔しないでもありません。

2015/12/20 13:53:46

自由の身

パトラッシュさん

Reiさん、
そう言って下さるのは、Reiさんだけです。
当人は、必ずしも満足の行く十年ではなかったのですが・・・

家に対する考えは、人それぞれです。
私のように、地元密着の仕事をしていた身では、持ち家に永住する以外には、考えられなかったのですが、転勤で、各地に移り住むというのも、新鮮でよいかなぁ・・・と憧れたりもします。

Reiさんは、そういうしがらみがなくて、良いではありませんか。
無理に模索を終了させる必要も、ないと思いますが・・・

2015/12/20 13:26:19

「起きて半畳、寝て一畳」

シシーマニアさん

私は、もはや古い人間なのだと思いますが。
師匠のおっしゃる、上記の様な精神が、好きです。
実際には、「持たざる者のひがみ」というのかもしれませんが・・。

私は若い時、ずっとキリギリス精神で生きてきました。
なのに、何故か最近すっかりそれを、忘れていたのです。
周りの方が覚えていて、最近久々に思い出したという体たらくです。
キリギリスの老後としては、まあ飢えもせず、そこそこ生きているからでしょう。
其処には、私に都合のよい「貧すれば鈍す」という言葉もあります。

言葉は、便利なお友達です。

2015/12/20 12:31:16

良い大工さんに、建ててもらいました

パトラッシュさん

喜美さん、
建てた大工さんと、今もつながりがあるとは、とても心強いことです。
息子さんの同級生なら、間違いないですね。

私の旧宅も、ある大工さんに建ててもらったのですが、
彼が廃業してしまい、その後、アフターサービスを受けられなくなりました。

2015/12/20 12:29:26

立派なSOYO邸

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
貴女の十年も、波乱に満ちていましたね。
「禍福は糾える縄」の如くに。
確かに災難はありましたが、物は考えよう。
今ある平穏を、大事にして、生きようではありませんか。
安住の家を持っていること、それは本来、幸せなことなのですから。

2015/12/20 12:24:44

住む家

Reiさん

師匠は、この十年、色々な素晴らしいことをやって来られたと思います・・・いえ、お世辞ではありませんよ(^^;)

住む家は、その人を表すと言いますが、そういう意味では私はまだ模索中です。

2015/12/20 10:39:08

建築会社

喜美さん

我が家は見た通り古家です
建築会社そんな素敵でない唯の大工さんが建てその三代目がたまに管理に来ます 息子の同級生で おばさん小母さんと瓦が1個ずれていたとか
瓦変えたときも手配は彼 半年に1回は見まわってくれます 直すときはお金かかりますけれど 新築のこと考えたら全くかかりません

2015/12/20 10:18:19

先のことはわからない

さん

パトラッシュ師匠 おはようございます。

この家も、あと一年十カ月で築十年を迎えます。
建築会社は十年後にはメンテナンスし、契約更新とか言っていましたが、先のことは分からないので、とりあえず十五年後に一度メンテして、その先は考えていません。

建て替えた理由は、昔の家は寒くて広すぎた!
そして梅雨時には、座敷に百足が毎年現れた。
隣が飲み屋で、音痴のカラオケでしばしば起こされたからなどです。(笑)

越して二年は正に人生の楽園でした。
夫と二人で晴耕雨読、穏やかな晩年を迎えると思っていました。
その後、後家になり、嫁して初めて勤めにも出ました。
そして、今は家に居て、物書きが生きがいです。
余りの変転で、「先のことは全くわからないものだ。しかし、描いた未来への道が閉ざされても、どっこい新たな道ができるものだ」と、自然体で生きられるようになりました。
あと何年生きるかもわかりません。
なるようになるさです。

2015/12/20 10:08:34

PR







上部へ