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パトラッシュが駆ける!

手拭い一本 

2015年12月04日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

手拭いを頂戴した。
これが、並みの手拭いではない。
深閑たる森を思わせる、濃緑色であり、
それは「梨園染」という、特殊な染め方によるのだそうだ。
その片隅に、錦糸をもって、龍の絵の刺繍が施されている。
今時の手拭いは、実に瀟洒であり、もう手拭いとも言えなくなっている。

昔は、実用品であった。
何かにつけて、ただで配られたものだ。
やれ、ラーメン屋の新装開店とか、新聞購読の契約の際の、景品にである。
しかし今や景品は、洗剤やビール券に、取って代わられてしまっている。
手拭き、顔拭きとしても、とっくに、タオルに負けてしまっている。

手拭いは今、僅かに装飾品として、その命脈を保っている。
そう言う感がある。
だから、土産物として、歌舞伎座の売店でも売られている。
芝居の絵柄の入った、とても汗を拭くには惜しい、芸術的なそれがである。
手拭い一本が、八百円、九百円。
これを実用品と見るから、高いのであって、装飾品と見れば、
決して高くはないことになる。

歌舞伎の舞台において、この手拭いが、撒かれることがある。
一つのご祝儀であって、新春興行などの際に、行われる。
「京鹿子娘道成寺」で、所化と呼ばれる修行僧達が、
舞台前面に立ち並ぶや、懐から取り出し、客席に向け、一斉に投げ放つ。
花道からも投げる。
乙に澄ました、歌舞伎座の観客席も、この時ばかりは、騒然となる。
和服を着た、良家の奥様風女性だって、あられもなく手を伸ばし、
これを掴もうとする。
ふて腐れているのは、二階席、三階席の客だ。
どうせ届くわけがない。
観劇料の差を恨みつつ、憮然としてこれを眺めている。

現実社会では、過去の遺物かもしれないが、古典芸能の中なら、
手拭いは今も立派に、生きている。
と言うより、小道具として、欠くことが出来ない。

頬かぶりする。
目隠しをする。
小判を包む。
出刃包丁を包む。
いざという時には、裂いて包帯にする。
下駄の鼻緒をすげる。
これほど便利な布きれは、他にない。

私が最後に、手拭いを実用したのは、四年前のことであった。
四国一周の、遍路旅に出て、菅笠をかぶった。
この時に、頭に巻いた。
菅笠の安定のために、そして、額の汗の垂下を防ぐためである。
タオルでは厚過ぎる。
手拭いの薄さが、ぴったりなのであった。

その日の宿に着くや、汗まみれの、これを洗う。
薄いから、干せばたちまち乾く。
一本の手拭いが、旅の間中、繰り返し役に立った。

しかし、もう使うこともないだろう。
そう思いつつも、捨てきれず、その手ぬぐいは、
着用した白衣と共に、今も箪笥の中に収めてある。

 * * *

今回、濃緑色の手拭いを、下さったのはRさん。
同じSNSに加わる、女性である。
彼女は、キルトをやっている。

表地と裏地の間に薄い綿を入れ、重ねた状態でキルティングしたもの、これを称するらしい。
布片を縫い合わせることから、パッチワークキルトともいうそうだ。
様々な色の布を用い、作者の思いを表現する。
具象もあれば、抽象もある。
絵具によらず、布片を用いるところの、絵画と言ってもいい。

これの展覧会が行われた。
同じSNSに加わる仲間、数人と示し合せ、それを見に行った。
Rさんのそれは、パリのエッフェル塔に、灯りがともった光景を描いている。
題して「シャンパンフラッシュ」
黄色い布の小片を、無数に張り並べ、巧みにエッフェル塔の曲線を、表している。

台布には、故意に、不等辺の四角形を用いている。
一見、危うく見えるその不均衡が、逆にエッフェル塔の安定感を増している。
その辺の計算が、巧みというよりない。

キルトについて、予備知識のなかった私は、これに驚いてしまった。
Rさんの作品を始め、展覧会場にある、六十もの作品、
そのすべてが、それぞれの世界を主張している。
手芸の域を越え、芸術へと昇華している。

来て下さったお礼に・・・という意味だろう。
「どうぞお土産に」
Rさんが、手拭いを下さったのだ。
その片隅には、龍の横に、流麗な字形で「P」の一文字が刺繍されてあった。
これつまり、私のイニシャルなのである。

 * * *

何に使おうか・・・
名入りの手拭いを前に、しきりに考えている。
汗ふきにしてしまうには、あまりにも惜しい。

試みに、遍路旅でやったように、頭に巻いて見る。
縦に四つ折りにし、その中央部を額にあてがい、
後頭部で交叉させ、余った尻尾を、本体に挟み込む。
それを、鏡に映してみる。
白い薄毛が隠れるからだろう、意外にも若く見える。
同じ濃緑色の、作務衣と合わせたらどうか・・・
囲碁サロンの主として、不都合であろうか。
蕎麦屋なら、似合うかもしれない。

一本の手拭いを前に、私は、しきりに考えている。



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次回?・・・

パトラッシュさん

彩々さん、
アドバイスを、ありがとうございます。
バンダナ風もいいですね。
日野正平さん流もいいですね。
但し、衆目を慣れさせるまで、少し時間がかかりそうです。
その間の、奇異な目に、私が耐えられるかどうか・・・ということになります。
自信が付いたら、次の飲み会には、着用して現れることになるでしょう。(笑)

2015/12/05 19:21:30

こんなスタイルも

彩々さん

こんにちは

次回お会いするのが楽しみです。

よく町で若物がダンスしていますでしょ!?
彼らたちみたいにキャップの下にバンダナを巻いて
いるスタイルを見かけますでしょ!?

パトさんなら、それもパトさん風に使いこなせそうですよ

自転車で旅番組紹介されている日野正平さんの
画像参考に↓こんな感じも素敵!

https://www.google.co.jp/search?q=%E7%81%AB%E9%87%8E%E6%AD%A3%E5%B9%B3+%E8%87%AA%E8%BB%A2%E8%BB%8A&safe=active&rlz=1C1ARAB_jaJP465&espv=2&biw=1242&bih=585&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ved=0ahUKEwiB2ojS5sPJAhWFl5QKHR-lAW4Q7AkILw

2015/12/05 12:44:47

お大事に

パトラッシュさん

喜美さん、
お目にかかれなくて、残念でした。
Reiさんから、洒落た手拭いを頂戴しました。
大事に使わせて頂こうと思っております。

私は、医者嫌い、病院きらいであります。
軽微な病気では、なるべく行かないことにしています。
でも、心臓となったら、そうも行きませんね。
喜美さん、お大事になさって下さい。

2015/12/05 11:16:59

良かったですね

喜美さん

お会いできなくて残念でした
痛みは取れてもこの足では一人では駄目で皆さんがお見えになる事は聞きましたけれど残念でした その手ぬぐい使ってくださいね 喜ばれますよ

そう病院嫌い見せて頂き大笑い(失礼)
私も大嫌い今は心臓の方だけは仕方なく2か月一回行きます 風邪位で行ったら余計にうつります 足は無知から行かなかったですけれど生命力が有れば助かりますね

2015/12/05 09:45:02

達者

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
今回のブログは、レポートの意味が、半分あります。
当日の宴席で「あっしだって、書いてやるよ」と、皆さんに見得を切った手前、書かざるを得なかったのです。
弟子を自称する方々は、皆さん大変に、お口が達者です。
(それこそ、口から先に生まれたかのように)
私なんか、すぐにやり込められてしまいます。

師匠より偉い弟子、それもまた、良いかもしれません。

2015/12/04 19:44:03

恐れ入りました

パトラッシュさん

Reiさん、
貴女のことを、見直しました。
(いえ、今まで、軽視していたわけでは、ないのですが)
才女だったのですね。
一芸に秀でた人と付き合うのは、楽しいものです。

もう宿題を出すのは、やめようと思いながら、
しかし、貴女の顔を見ると、また出したくなってしまうのです。

2015/12/04 19:35:28

エプロン姿を

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
菊五郎親子が出るとなれば、それも正月とあれば、
予約が殺到するでしょう。
初日から、しばらくは、良席が取りにくいかもしれません。
誰だって、正月に歌舞伎は見たいですから。
中旬、下旬まで、待てるかどうか・・・
そこが、芝居ファンの辛いところです。

エプロン、見せて下さい。
道具や衣装は、使ってこそなんぼのもの。
贈り主だって、喜ぶというものです。

2015/12/04 19:27:59

その気になり・・・

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
おだてられると、木に登ってしまう私です。
次の飲み会には、陶芸家風に装って、現れるかもしれませんよ。
その時に、逃げ出さないで下さいね。

2015/12/04 19:20:54

失礼しました

Reiさん

先ほどのコメントの中で、間違えてしまいました。
「SOYOさんの小説の中のご隠居さん」でした。失礼しましたm(__)m

2015/12/04 16:10:07

さすが師匠

シシーマニアさん

手ぬぐいから、パッチワークとは、意表を突くにも程があると思いながら読みましたが。

でも、今回の意表をついた仕掛け人は、Reiさんだったのですね。

師匠の門人は、一味違いますね。

押しかけ弟子の一人として(名前ばかりですが)わくわくします。

2015/12/04 14:17:05

気に入っていただけて

Reiさん

嬉しいです。
展示会に来てくださった方には、何かのお礼をしていました。
それぞれの方にどんな物を差し上げるか考えるのは、とても楽しい作業です。
今回もGさんには、すぐにエプロンだと思いました。
女性にはやはり、ハンカチがいいかなと思いましたが、師匠はハンカチというのもピンときません。
それで、手ぬぐいを思い付きました。
師匠が被ったら、私はSaさんの小説の中のご隠居さんを思い出しました。
そんなに高級なものではありませんので、何にでも使ってください(^_^;)
パッチワークのことも、芸術と言っていただき、嬉しいです。
次の作品にも力が入ります!!

2015/12/04 12:46:53

エプロン

吾喰楽さん

おはようございます。

Rさんは、相手に合わせて、色々、配慮してくださったのですね。
有り難いことです。
近日、私はエプロンを、ブログでご披露します。

今日は、国立劇場の正月公演(菊五郎親子)のチケットの発売日です。
中々、アクセス出来ませんでした。
初日の良い席は、あらかた売れています。
手拭いを、撒くのでしょうか。

2015/12/04 10:33:48

お似合いでしたよ

さん

パトラッシュ師匠 おはようございます。

あの場で、皆は笑いましたが、私は「中々お似合いだ」そう思いました。
被り方も、色々あります。
陶芸家のように、きゅっと絞って被り、後ろに尻尾を垂らしたり、ご自分で鏡の前で、色々なさってみて下さい。

濃緑色の手ぬぐいと作務衣、中々粋ではありませんか。
鳶の被り方もよいかもしれません?

2015/12/04 09:54:27

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