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独りディナー
アンドレアさん
2015年09月09日
テーマ:旅
スペインのセヴィリアへ行った時。
帰国後にリサイタルを計画していた私は、演奏する予定だったシューマン作曲「カーニバル(謝肉祭)」について、同伴者達の誰かに質問しようと思い立ち、楽譜を持参した。
「謝肉祭」というピアノ曲は、20曲ばかりの小品が連なった作品で、各曲にタイトルがついている。
まあ、カーニバルでの情景、と言ったところである。
タイトルの中のいくつかが、西洋人なら皮膚感覚で知っている、といった事もあろうかと期待したのだ。
例えば、「道化師」に対する、色々な呼び方、等
日本で言えば、きび団子を食べたことが無い人でも、その名を聞けば桃太郎の事をすぐ思い浮かべる、といったかんじかな・・。
言葉の持つ背景は、解説書だけでは理解しがたいところが間々ある。
私がまず、ドイツ人のウルリケさんに訊いたところ、「それは、アンドレアに訊くのが一番よ。彼女は音楽家だから・・」という事だった。
アンドレアさんは、日曜の夜のウエルカム・レセプションに顔を出さないことが多い。
ドイツ人だけど、長くパリに住んでいて、ドイツ教会で合唱の指揮をしているのだという。
だから、開催地がスペインとかオランダとか、或いはニース位だと、午前中の礼拝が終わってから駆けつけるので、レセプションには間に合わないのだ。
レディースプログラムのバスの中で、楽譜を見ながらアンドレアさんに解説してもらった色々な言葉の背景は、詳細こそ忘れてしまったけれど、とても楽しかった。
それからは、一年ぶりに遭うと、「何かコンサートした?」といった会話になる。
今回面白かったのは、彼女も日曜日に聖マリア教会を訪れたらしく、やはり神父様とオルガンのピッチがピタリと合ったのには感心したらしい。
「でも、神父様がこっそり手元にでも、小さな音叉の様なものをつけていたのではないかと思うわ」と、アンドレアさんは笑っていた・・。
私は、最初の音程だけではなく、長いソロの間にピッチが狂わなかったのは、やはり絶対音感の存在だと思うけど・・。
「メールで、ドイツのラジオだったかテレビに出演する、と知らせてくれたわね」というと、
「そう、テレビにね。それが、スタッフとの準備が大変で・・。30分の番組なのに、作り上げるのに、一年かけたのよ。」
でもきっと、指揮者のアンドレアさんには晴れやかな舞台だったのだろう。
ニースで大会があった後、仕事を終えて帰国した主人と別れて、私はパリで数日を過ごした事がある。
オペラ座でバレーを見たり、留学中の生徒に会ったり、ルーブル美術館にも寄ったり、そして日曜日を挟んでいたので、教会でオルガンを聴こうと目論んでいたのだ。
そこで、アンドレアさんにオルガンの素晴らしい教会の事を尋ねると、
「サン・トリニティ教会がいいわよ。あそこは、オリビエ・メシアン(フランスを代表する現代作曲家)がずっとオルガニストとだった処だから。」と場所を教えてくれた。
パリに来たら夕食でも一緒にと約束をして、連絡先の携帯番号とメールアドレスを渡しておいた。
さて、パリの何日目か、午前中ルーブル美術館を訪ねた日。
次第に増えてくる客層に疲れた私は、庭のベンチに座って携帯に電源を入れてみると、アンドレアさんからメールが入っていた。
「今晩、古い教会でショパンのピアノリサイタルがあるんだけど、夕食の前にそちらに行きませんか。
行く気があれば、チケットを予約しておきます。待ち合わせの時間も早めましょう」
ホテルまで迎えに来てくれたアンドレアさんと、地下鉄に乗って、うろ覚えだけどパリで一番古い、ギリシャ正教の教会へ行った。
「私は、ウィーンに住んでいた頃、教会へオルガンを聴きに行った事はあるけれど、教会での演奏会は経験が無くて・・。パリでは、よくあることかしら」と訊くと、
「だって、パリには夏休みだけでも100万人もの観光客が集まるのよ。その人たちのためには、コンサートホールだけじゃ足りないから・・。
それに、教会だって収入を得る事は必要なわけだし」と、アンドレアさんはうがったことを言う。
その日のピアニストは、エコール・ノルマルという音楽院の教授で、50代くらいのおじさん風の人だった。
私が通常研究している、指をあまり上にあげない奏法を使っていて、本場の人だという印象は持った。
前日、街の中を散歩していた時に、ポスターが目についていた演奏会だったので、まあ楽しかった。
でも、日本を出る前にネットで調べて予約した、パリオペラ座ガルニエでの、バレー公演とは比すべき程ではなかったけれど・・。
それは、ローラン・プチの演出で、知る人ぞ知る名だたる舞台であった。
バレーは時折、ウィーンのオペラ座で見たことはあったけれど、現代風なその演出と、演じる人の高度な技術はさすが世界の中心に位置するパリオペラ座であった。
教会の演奏会まで、お茶を飲みながら雑談をしていた時、アンドレアさんにバレーが素晴らしかった話をすると、
「そんなに良かったなら、ヴォルフガングを誘って行ってみようかしら。彼はバレーが好きで、若いころはよく、安い席で一緒に見たのよ」
その時、次期会長さんに決まっているご主人の顔を思い出しながら、こんな処にも西洋志向の私は嬉しくなるのだった。
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写真を見るのは好きです
パトラッシュ師匠、コメントありがとうございます。
何に寄らず、背景を知るのは重要だし、面白いですよね。
まあ、裏話めいたことにもなったりしますが・・。
先だって、師匠の写真を拝見しただけでも、師匠の背景をいささか覗き見した気分です。
文章から想像していた師匠より、はるかにジェントルマンでした。
あの江戸前で諧謔好きな師匠の文章は、地ではなかったのかな等、舞台裏を想像する楽しみもありました。
多分、師匠はデモにお出かけだろうと思っていましたが、やはり。
情勢は、どんどんきな臭くなっていく気がします。
2015/09/09 22:43:22
毎日思い出して書くのが楽しいのです
彩々さん、いつも嬉しいコメントを書いて下さってありがとうございます。
そんな風に持ち上げて下さると、次が書きにくい気もしますが、それでも書いてしまうのが能天気なところでしょうか。
でも、書くのは好きながら、私には創作はできません。文章も作曲も・・。
変な言い方ですが、実生活でも嘘がつけないんです。
まあ、度量が狭いのでしょう。
2015/09/09 22:31:58
年季が入っていて・・。
吾喰楽さん、コメントありがとうございました。
本来は、自分の国にしっかりと礎を築く方が賢いですよね。その文化に触れるのも、自然ですし。
私も、歌舞伎に凝っていた頃は、東京で毎日人間国宝級の人が舞台で演じているなんて、思っていました。
只、私の西洋思考は、60年以上の年季が入っているので、如何ともなし難い」ところがあります・・。
2015/09/09 22:26:32
背景
言葉の背景は(出自、由来と言ってもいい)出来るだけ、知っておきたいですね。
その本来の意味を掴んでいるだけで、言語表現から汲み取るものは、
格段に深くなりますから。
(日本の古語、漢語などにおいて、特に)
音楽鑑賞の場合も同様に、その題名の背景を知りおくことにより、
より深い味わいが得られるかと思います。
2015/09/09 09:37:11
ひきこまれるので
朝の忙しい時間じゃなく、後で
ゆっくり読ませていただこうと
思いつつ、ちょっと覗かせていた
だいたら、今日もやっぱり、シシーさんの
溢れる想い、感性に引き込まれてし
ました。
表現者であるシシーさんは、音楽だけ
ではなく、奏でる様に言葉を綴ることが
自然と出来てしまうのですね。
帰国されてからUPされたBlogを
シシーさんが曲にして聞かせていた
だきたいと思いましたわ。
時にはバロック調で、ワルツ調で…。
2015/09/09 08:27:02
至福
おはようございます。
音楽、特にクラッシックに疎い私ですが、至福の時を過ごされたことが、ひしひしと伝わって来ます。
私は東洋思考、否、日本思考なんでしょうね。
昨日は国立能楽堂のチケット発売日で、希望の席が取れました。
よく解りもしない能楽に惹かれるのは、笛、小鼓、大鼓、太鼓の魅力が少なくありません。
2015/09/09 08:22:56