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吾喰楽家の食卓

人間国宝・柳家小三治 

2015年07月27日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

紙切りの次は、この日のトリ、小三治師匠の登場である。
前座は座布団を裏返す前に、高座に落ちている小さな紙の切り屑を拾い、袂から出した手拭いにしまった。
勿論、大きな切り屑は、正楽師匠が持ち帰っている。
そして、座布団を裏返した。
座布団は、「客との縁が切れない」ように、縫い目のない方を前にして出すのが作法だという。
更に、小さな木製の腰掛けを、座布団の後ろにそっと置いた。
昔、銭湯で見かけた、檜でできたやつだ。
師匠には、リウマチの持病がある。
ところが、前座は「メクリ」をめくらずに下がってしまった。
でも、忘れた訳ではなかった。
同じ前座が、今度は、蓋つきの大きな湯呑み茶碗を持って出て来た。
座布団の右前にお茶を置き、「メクリ」をめくって下がった。

いよいよ、小三治師匠の登場である。
満席の会場からは、割れんばかりの拍手だ。
すぐ後ろから、「待ってました!」の声が掛った。
師匠が座布団に座ると、再度、拍手である。
まだ、腰掛けは使わない。
師匠がお辞儀をして顔を起こすと、拍手はピタッと止み、会場は静まり返った。
客の全員が、師匠の第一声を、固唾を飲んで待っている。
この日の演題は、「お化け長屋」である。
マクラは、怪談物を得意とした、先代正蔵(彦六)の逸話だ。
具体的な噺の内容は、別の機会に譲るが、静寂と笑いを繰り返した。
途中で腰掛けを使い始めたが、いつの間にかといった感じだ。
会場の全ての人が、師匠の世界に引き込まれていた。

柳家小三治は、「マクラの小三治」と云われるほど、マクラの面白さに定評がある。
師匠は、高座の録音を元に「ま・く・ら」という、マクラだけをまとめた本を出版している。
速記集だから、文章そのものは、駄文かもしれない。
でも、これが面白い。
ところが、今回、実演は初体験だが、その面白さたるや本の比ではない。
つまらなそうな顔をして、面白いことを話す。
飄々とした表情で、ぶっきら棒に喋る。
面白い話は、面白そうに話さなくても、話すだけで面白い。

一晩寝ても昨日の興奮が冷めやらぬままに、今、このブログを書いている。
今月になって、初めての国立演芸場だった。
前回は6月2日だったので、2ヶ月近く落語を聴いていなかったことになる。
多分、わが落語人生において、昨日は忘れられない一日になるはずだ。
それほど、素晴らしかった。
落語に於ける人間国宝の選定基準が、よく解らない。
でも、柳家小三治は、人間国宝の名前に恥じない噺家であることは間違いないと思う。

以前から師匠は、誰かに似ていると思っていたが、今、判った。
野球のイチロー選手である。
鋭い目付きが、そっくりだと思うのだが・・・

写真
7月26日(日)第387回・国立名人会の演題 & 同日の夕餉



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彩々さんへ

吾喰楽さん

こんばんは。

興奮冷めやらぬ状態で、短時間で書き上げました。
小三治師匠の凄さだけは、伝わったようですね。

男の色気、何となく解ります。
男の私は、色気より粋を感じます。

2015/07/27 18:24:55

負けていませんよ。

彩々さん

今日のBlogは冒頭から違いますよ。

>人間国宝の芸の凄さ

これを肌で感じ、そのまま言葉にして
伝わってくるって、ゴク兄いも
マケテマセン!

いや〜凄いです。
小三治さんは昔から何となく好きな
落語家さんです。
なんか話しながらそっぽ向く人ですよね!?
半分照れているのか…その姿が子供ながら、男の色気を感じたものです。

2015/07/27 16:24:35

まこさんへ

吾喰楽さん

こんにちは。

当地、今日も昨日に続き、猛暑日です。
と云っても、昨日は東京で落語を聴いていましたが。

いまだに、昨日の余韻に浸っていますよ。
2ヶ月近く、間が空いたので、尚更、楽しめたのかもしれません。

2015/07/27 15:20:04

ご無沙汰です〜

まこさん

暑いので毎日ボケーッと過ごしています。ご無沙汰ばかりで失礼しています。

>面白そうに話さなくても、話すだけで面白い。
落語家さんの技でしょう〜さすがです。
吾喰楽さん、余韻が残るくらいだから小三治さん人間国宝だけあります。

2015/07/27 15:06:52

シシーマニアさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

ピアノの演奏会も同じなんですね。

本文にも書きましたが、静寂と笑いの繰り返しなんです。
ざわざわした、中間がありません。
あっという間の30分でしたよ。
時間配分は、マクラ10分、噺20分くらいだったでしょうか。

落語には、アンコールの習慣がないのが、残念です。

2015/07/27 10:18:45

SOYOKAZEさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

前日、ブログの下書きを書くことが多いのです。
さすがに、昨夜は書く元気がありませんでした。
Eテレで、狂言を中継していましたが、2時間番組の半分は寝ていました。

師匠は、マクラの中では、よく言葉を忘れます。
昨日は、「彦六」と「ドライアイス」を、忘れていました。
噺が進行してから、とんでもない所で思い出します。
すると、客は笑う。
でも、昨日のは、「忘れたふりをしている」と、確信しました。
中々、頭がいい人です。

2015/07/27 10:04:12

情景が、よく浮かびました。

シシーマニアさん

>客の全員が、師匠の第一声を、固唾を飲んで待っている。

音楽会でも、あります。
全員の空気が一つになった、その瞬間に弾き始める人と、更にそれを自分の空気にしてから弾き始める人が居ます。
いずれにしろ、静寂の時間は、待っている様でいて既に始まっているのですよね。
それが客席と一体になる、ということなのかもしれませんね。

2015/07/27 09:53:12

パトラッシュさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

むっつり顔の件(くだり)は、先代三平を意識して書きました。
あえて、名前を出しませんでした。
でも、さすが、パトラッシュさんですね。
私自身、好きな芸風ではありませんが、素晴らしい才能の持ち主だと思っています。

碌に推敲もせず、アップしています。
人間国宝の芸の凄さが、少しでも伝わったら幸いです。

2015/07/27 09:52:43

臨場感

さん

おはようございます。

まるで、その場にいたかのように、名人会の様子が伝わって来ました。
貸して頂いた「まくら」の中から見える師匠の人となりと、何度か目にしたお顔や声で想像しましたが、本物が見たいと思いましたねぇ。

パトラッシュ師匠も、仰っていらっしゃるように、人を笑わす時に、自分は笑ってはいけないのは演技の鉄則でした。

2015/07/27 09:28:13

そうです

パトラッシュさん

人を笑わせるには、むっつり顔に限るのです。
かつての三平は、例外でした。

小三治師匠の話芸を彷彿とさせるほどに、
吾喰楽さんのレポートも、堂に入っています。

なるほど、イチローですか。
言われてみれば・・・その通りかも。

2015/07/27 09:21:44

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