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試金石 

2015年05月24日 ナビトモブログ記事
テーマ:音楽

ピアノ教育連盟から冊子が届いた。

その中に、野島稔さんが恩師のレフ・オボーリンについて語っているコーナーがあった。

野島さんとは面識があるわけではない。

でも、ほぼ同世代にあたる野島さんの、周りの友人達から、時折噂は聞こえてくる。


野島さんを最初に聴いたのは、日本音楽コンクールでの本選会だった。

三人目に出場した野島さんは、課題曲のドビュッシ―の「ピアノのために」それに、リストの超絶技巧練習曲の「鬼火」を弾いた。

今でも、その時の野島さんの様子が目に見える様である。

最初の和音の響きからして、聞いたこともない様な音色であった。

更に、「鬼火」の鮮やかな技巧と、乱れの無い音色の美しさ。

その頃の野島さんの特徴は、乱れが無いという事だったと思う。

殆どが素晴らしい、のではなく、全てが素晴らしい。


他の人を聞かずしても、高校生だった私にさえ「一位は他に居ない」と思わせるに十分な演奏であった。

結果は、一位と合わせて全部門での最高位の大賞を受賞していた。

野島さんは当時、まだ高校三年だった。


その直後、私は声楽の先輩の伴奏で、学生コンクールに出場したことがある。

その時、野島さんも伴奏者として名を連ねていたのには、目を疑った。

結果待ちの時だったか、ロビーに居る野島さんを見かけたので、まだ一年生だった私は思い切って、「サインしてください」と頼んだのだ。

すると野島さんは「僕はそんな身分じゃない。」と言って、あっさり断られてしまった。

大賞受賞の、直後の事である。

でも隣にいた友人に「書いてやれよ」と背中を叩かれて、やっと書いてくれたのは、本当に真面目な高校生が書く署名、といった文字であった。


それから間もなく、音楽界の寵児となったのもつかの間、野島さんはソ連のオボーリンのもとへと留学してしまい、暫く音沙汰はきこえてこなかった。

そして印象に残っているのが、デビューリサイタル。

ベートヴェンの28番のソナタから始まり、ブラームスの「パガニーニ変奏曲」を弾いて、最後がプロコフィエフの8番のソナタ。

それは、「満を持して」というにふさわしい演奏会であった。

「そんな身分じゃない」という生き方で、人生が貫かれている様であった。

虚飾など全く必要とすることなく、作曲家と演奏家が対峙している、正統的な音楽。


でも、いつの頃からか、野島さんの名前は余り聞こえてこなくなった。

どうやらアメリカの国際コンクールに入賞して以来、活動の場をアメリカに置いていたかららしかった。


先日、野島さんのCDをアマゾンで探してみた。

やっと、探し当てたのが二枚。

それも、アメリカで録音したかなり前のものだ。


勝手な想像だが、日本の商業ベースは野島さんにはふさわしく無かったのではないだろうか・・。

最近東京音楽大学の学長に就任して以来、時折メディアに登場するけれど。


今、私はちょっと自分に満足しそうになると、野島さんのCDを聴く。

私にとって、野島さんの演奏を聴く事が、試金石になっているのだ。



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著名人の宝庫

シシーマニアさん

喜美さん、コメントありがとうございます。

そうでしたか!
喜美さんがお住まいの環境は、著名人の宝庫ですね。
野島稔さんは、我が国随一ともいえるピアニストなのに、一般に余り周知されていないという、そのスタンスも凄いと思います。
きっとお姉さまも、足が地に着いた方だったのでしょうね。

2015/05/24 20:34:44

野島さん

喜美さん

野島さんは此処の土地の人です
私はお姉さんと親しく
彼の演奏会度々見に行きました
小さい時からご両親がピアノ習わせに
送り迎されたようでした末っ子さんだと思いました
知り合いの方のお姉さんは幼稚園の園長先生 もう一人も音楽関係の方でした
私のお友達はなくなり
最近の野島さんのこと知りません

2015/05/24 15:16:21

只者ではありませんね

シシーマニアさん

SOYOKAZEさん、こんにちは。

早速、You Tubeでお聴きになったのですか。私も今、改めて聴いてみました。
因みに私は、通常You Tubeは接続した他のスピーカーか、或いはイヤフォンで聴きます。内臓されているスピーカーを通さないので、大体オリジナルの音響で聞こえてきます。
野島さんの為に、言い訳しているみたいですが・・。
SOYOKAZEさんにとっての試金石は、師匠ですか。素晴らしい出会いですね。その存在は、やはり只者じゃありませんね。

2015/05/24 14:49:09

YouTubeで聞きました

さん

こんにちは。

演奏を、YouTubeで聞いてみました。
素晴らしいテクニックですが、音は動画故、実際とはかけ離れていたと思います。
そのコメントに、「彼のような人のCDが2枚しかないのが・・・」と嘆きがありました。
商業主義と組しない方なのでしょうか?

己を戒める試金石、私は師匠がそうです。
あの方の文章を読むと、未だに唸ります。

2015/05/24 14:19:05

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