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パトラッシュが駆ける!

はははの歯 

2013年06月07日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

医者が嫌い、歯医者が嫌いと来ている。
いや、人が嫌いなのではない。
医院に行くのが、いやなだけだ。
その証拠に、私の囲碁サロンの客には、小児科医が居て、
歯科医も居る。
それぞれを先生と呼び、来れば大いに、歓待している。
ついでに、税理士も居る。
これを私は、先生三羽烏と称している。

耐えられるうちは、医者に行かない。
そういう癖がついている。
自然治癒ということがあるからだ。
風邪ごときで、医者に行く人の、気が知れないでいる。

歯だけは、放置して、良くなることは、ないと言われている。
その通り、良くはならない。
しかし、慣れると言うことはある。
歯の一部が欠損しても、次第に慣れ、噛むに支障が、
なくなるということがある。
それを見極めるために、すぐに歯医者の門を、叩かないだけだ。

今回は、奥歯の被蝕部を埋めた、金属が取れた。
噛むには支障がない。
浅草名物の、堅焼き煎餅で、試したら、大丈夫だった。
それで、しばらく考えていた。

剥離した金属片を、とりあえず、シャツの胸ポケットに入れていた。
これがいけない。
妻に見つかってしまった。

「やあねえ」
「運が悪かったんだ」
二人の会話がかみ合わない。
彼女は、取れたまま、放置したことを、責めている。
その事実を、明らかにしなかったことも、非難している。
私は、被せものが取れるほど、噛むのに熱中したことを、悔やんでいる。
両者の間に、埋めがたい齟齬がある。

美味い肴であったのだ。
島根県浜田市産の、ふぐの味醂干し。
これをさっとあぶって食べた。
噛めば噛むほど、その豊かな味が、口中に浸みて出た。
酒は、賀茂鶴の吟醸酒。
広島の酒であり、これがまた、私の好みなのだ。

持って来てくれたのが、写真家のO君と、その友人のF君。
それぞれ、三十代、二十代の若者である。
嬉しいではないか。
到来物をかかえ、人生の先輩を表敬し、遠路を来てくれたのである。

「遍路はですね、旅の要素を全て内包した、旅の中の旅です。
おやりなさい。時間とお金がなんとかなるなら」
私は、二人を前にして、経験を語り、持論を展開し、
うれしくて仕方ない。
前向きな話であり、そこに希望があるからだ。

相手が年配者の場合、こうは行かない。
やれ、腰が痛い、足が痛い、小便が近くなったと、
嘆きを聞かされるばかりだ。
「あそこで、ナニを食っている時に、そいつに会って・・・」
話の中に、固有名詞が出ない。
「五十番でラーメンを食べている時に、
福山雅治のそっくりさんに会って、驚いたって話でしょ」
二度も三度も、聞かされた話だから、もう私の方が、詳しくなっている。

若者の方がいい。
「歳を取ったら、若者と付き合え」
これは至言であると思われる。

「遍路を体験したら、他の旅なんか、色あせて見えますよ」
私の気炎は、上がりっ放しだ。
飲みながら語る、食べながら喋る。
これがいけない。
気が付いたら、口の中に固いものがあった。
おや、ふぐにも骨があるのかと、指に取ってみたら、
これが私の歯の、一部だったというわけだ。

ふぐを恨んではいけない。
若者を恨んでもいけない。
全ては、この私が悪いのである。

 * * *

「おっ、かちっと入りましたね」
「・・・・・」
(返事をしたいのだが、口を開いているから、声が出ない)
「これなら、使えそうですね」
「・・・・・」

私の行きつけの歯医者は、若いけれど、如才のない人だ。
何年ぶりかで顔を出しても、皮肉の一つも言わない。
そればかりか、外れた金属片を、再利用してくれると言う。
歯を削り、新たに型を取り、外注した金属片を取り寄せ、
最後に凹部にはめ込む。
これを覚悟していた。
完治まで、二〜三週間はかかるだろう。
意外な成り行きになった。
世知辛い時世に、こんな奇特な歯医者が、居るだろうか。

接着剤が固まるまで、しばらく奥歯を噛んでいた。
「はい、いいですよ」の声に、口を開け、すぐに礼を言った。
それで終り、20分で済んだ。
これなら、歯医者を嫌いになるわけがない。

これは、私だけの問題ではあるまい。
嫌悪が生じる背景には、嫌われる側の問題もある。
このことに、医者も歯医者も、もっと思いを致してほしいと、
私は思っている。

ちなみに、私のかかりつけの歯医者Aと、
囲碁サロンに現れる歯医者Bは、別人だ。
私は、道楽と医療行為は、一線を画した方が、
いいと思っている。
例えばである。
私がBと対局し、快勝したとする。
こちらの「快」は、あちらの「不快」につながるのが、勝負の常だ。

診察台に横たわった私は、言ってみれば、まな板の上の鯉だ。
Bによって、どう料理されるか、わかったものではない。
だから、遊びは遊び、医療は医療と、付き合う人を、分けている。



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その気持

パトラッシュさん

hanahanaさん、おはようございます。

その気持、わかります。わかります。
あーあ、もっと慎重に噛めばよかった・・・と。

2013/06/11 07:09:01

こんばんは。

hanahanaさん

私も蟹を意地汚く食べ前の差し歯が二回取れ、朝一外れた差し歯を握り締め歯医者の玄関に立っていたことあります。
歯は自然には治りませんよね。

2013/06/10 19:36:14

それはそれは・・・

パトラッシュさん

我太郎さん、
そんな大変なことが、あったのですか・・・
それではもう、安閑として居られませんね。

私は幸いなことに、大病もせずに、なんとかここまで来ております。
何時か、病魔にとっ捕まりそうですが、それはそれで、仕方ないと思っております。

2013/06/10 13:12:14

我が身にも覚えが

我太郎さん

医者嫌いは同じですが、歯医者だけは直ぐに行きます
我慢していて大事になったことが有ります
ウイルス性の腫れで頑張って、辛抱たまらず行ったら即大病院に紹介され、そのまま入院
24時間点滴で1週間身動き出来ず
死ななかっただけましだと
我慢も程度ものですね

>嫌われる側の問題もある

これも身につまされます
一人よがりが多くてね
嫌われる原因に気が付かない

2013/06/10 08:45:55

落語的日常なのです

パトラッシュさん

トパーズさん、お読み頂きまして、ありがとうございます。
そもそもが、ずっこけの日常を送っておりますので、
何処を切り取っても、落語になりやすいのです。
私は、頑固な、隠居じじいということになります。

2013/06/09 07:02:36

流石です!

トパーズさん

いつもの事ながら、パトラッシュさんのお話
面白い落語を聴いているようで、楽しませて
頂き有難うございました。

2013/06/08 21:51:45

ネタに・・・

パトラッシュさん

猫村さん、おはようございます。
何時も、拙文をお読み頂きまして、ありがとうございます。

逆ギレはいけません。
固有名詞を、忘れた方が、悪いのです。
このネタ、何かの文中に、使わせて頂きます(笑)

2013/06/08 07:04:59

フフフ

さん

いつもパトラッシュさんの小説楽しみにしてます♪
想像をふくらませて笑ってます!

歳を重ねると確かに固有名詞が出て来なくなりますね苦笑
あの〜とかあれとか、何だっけあれとか、
自分がわからず私に聞いてきて、私が答えられないと
ほら、あれよあれ!などと逆ギレしてくるのは
やめてもらいたいですね。(笑)

2013/06/08 00:42:39

すぐばれる

パトラッシュさん

mickeyさん、
私は、隠すことが下手なので、
浮気をしても、すぐにばれるでしょうね。

小児科のドクター、診察はしないけれど、いろいろ言います。
ただし、自分も酒飲みだもので、人が飲むのにも、
寛容です。

2013/06/07 16:59:09

どうぞ喜んで下さい

パトラッシュさん

まちさん、
つまらない話を、最後まで、お読み頂きまして、ありがとうございます。

サロンには、囲碁の出来ない人も、たくさん来ます。
お近くでしたら、是非いらして頂きたいですね。

2013/06/07 16:55:41

こんにちは。

さん

私も歯医者と婦人科に行くのがきらいです。

でも歯医者は早く行ったほうが治療が痛くないし、安くあがります。取れた被せ物をポケットに隠しておくなんて、まるで子供みたいで。。。笑っちゃいました。

それに道楽と医療行為に一線を引くもなにも、小児科のドクターには熟年は診れませんわね。

そういう私も医院に行くのも薬を飲むのもなるべく避けています。

2013/06/07 16:37:41

面白かった〜

さん

パトラッシュさん、こんにちは!

まるで小説を読むように楽しく読ませて貰いました。
身近な事なので頷きながら、上方落語の様な展開、お後がよろしいようで・・・という感じでした。

さすが江戸っ子、流れる様なお話で、楽しかったです。

近かったら囲碁サロンを覗いて見たいものですね〜
囲碁は出来ませんが(>_<)

喜んじゃいけないのかな?

2013/06/07 15:18:58

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