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パトラッシュが駆ける!

視界良好 

2013年03月18日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

病院は、人でいっぱいだ。
雪が降ろうが、風が吹こうが、病気に休みはないということだ。
常に込んでいる。

検査室で、豊かなる体躯の男を見た。
気遣いしたところで、始まらない。
はっきり、肥満と言った方がいい。
偉丈夫と肥満、その違いは、動作が機敏であるかどうかだ。

その男は、四十を少し、越えたくらいなのに、
視力検査の椅子に、よっこらしょと言いながら、腰掛けた。
だから肥満だ。

その拍子に、ズボンがずり下がった。
腰のベルトが、十分に締まっていないからと思われる。
「締りがよくない」
これも、肥満の条件の一つだろう。

色柄のパンツが見えた。
見たくないものを、見てしまった。
その足もだ。
この寒いのに、素足でいる。
おまけに、履いているスニーカーの、そのかかとを、踏み潰してある。
体の重みがかかるからだろう、その踏み潰しは、
完膚なきまでであり、スニーカーはもう、
スリッパのように変形している。
これも、見たくはなかった。

私が検査を終え、待合室に戻ると、そこには、別の大男が居た。
その身体の横幅たるや、普通の人の倍くらいある。
赤っぽいコートを着ている。
赤は膨張色だから、余計に目立つのであろう。

髪がぼうぼうに、伸びている。
彼、座ればいいのに、突っ立っている。
だから、さらに目立つ。
しかし、衆人環視の中で、一向に臆するところがない。
こう言う人も、私は、見たくないのだが、つい眺めてしまう。
待合室というところは、何もすることがないからだ。

大学病院だけあって、規模が大きい。
患者も多い。
毎度、待たされる。

予約時間に合わせて来るのだが、その通りに始まったためしはない。
予約とは、おおよその“目安”くらいに考えた方がよさそうだ。
こんなに待たされるのなら、いっそこのまま、脱走してしまおうか・・・
何時も誘惑に駆られる。
定期検診だから、もともと切迫感というものがない。
症状もないのに、こんなところで、時間を費やすのが、惜しくて仕方ない。

しかし、妻に言われている。
「目は大事です。何かあった時に、困ります。別の病院で、
最初から診察を受けるのは、二度手間です。
あーただって、面倒でしょ」
その通りなのである
腐れ縁でも、繋がっておいた方がいい。
あなたとだって、同じですよと言いたいが、もちろん言わない。

「おや・・・」
見覚えのある顔が、見えたのだが、しかし、思い出せない。
しばらくしたら、アナウンスがあり、その男が立ち上がった。
「石田よしおさーん」
なあんだ、やはりそうだ。

囲碁のプロ棋士である。
かつて数々のタイトルを取るなど、その正確な打ち回しで、一世を風靡したものだ。
野球で言えば、ホームランバッターではないが、好球必打の巧打者と言ったところ。
王、長嶋のような、国民的スターではないが、張本、落合くらいの実力者だ。
囲碁をやる人で、彼を知らない者はいないだろう。

誰一人、気付いた者は居ないようだ。
私の目も、まんざらではない。
群衆の中から、一人の著名人を見出している。
それも、大きなマスクで、顔を半分隠していた人をだ。
この点からも私は、眼科に来る必要が、ないと思われる。

私の名が呼ばれ、診察室に入った。
「いかがですか?」
何時ものように、医者が聞く。
これを問診というのだろう。
「変わりありません」
私が答える。
儀式みたいなものだ。
この儀式のために、もう何年も通っている。
と言っても、半年に一遍なのだが。

「一応、見ておきましょう。お顔を載せて下さい」
目にライトを当て、検査を行う。
両目をやって、二分とかからない。

「きれいです。問題ないです」
これで終り。
次の予約を八か月後にしてくれた。
半年が、八か月に延びた。
二か月分、ローンの金利を負けてもらったような、そんな気になっている。

「ありがとうございました」
礼を言って、席を立つ。
この間五分とかからない。
しかし、病院に入ってからは、既に二時間以上経っている。

待合室には、まだ多くの患者が居る。
しかし、石田芳夫九段の姿は、もうなかった。
二人の大男も、見えなかった。

石田九段、元気がなかった。
それが少し気にかかる。
碁界のスターであっても、所詮生身の人間であるということだ。
生老病死、これは、誰にでも公平にやって来る。

大男の一人は、もっと心配だ。
彼、視力検査表の、一番上の字が、読めなかった。
相当に、視力が落ちていると思われる。
もしかしたら、糖尿病であろうか。
あれは、目をやられると聞いて居る。

眼科とは言え、病院である。
病人の集まるところだ。
待合室には、悩みが渦巻いていると、そう見るべきだ。
私なんか、幸せな方かもしれない。

その幸せを、確かめに来たようなものだ。
二時間やそこらで、不平を言ってはいけない。
そもそも世の中に、無駄な時間というものはない。
大勢の人間を、つらつらと観察が出来る。
こんな機会は、他にあるものではない。



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そうですね

パトラッシュさん

無罪放免、これに勝る喜びはありません。
二時間くらい、我慢我慢のうちですね。

2013/03/20 20:13:36

目がねえ

我太郎さん

>だから肥満だ

前後を呼んでないと、歳でも言うと言いたいところでした
何をしても、どっこいしょになってきました

>彼、視力検査表の、一番上の字が、読めなかった

私も深刻です
眼鏡をかけても0.5がやっとで、乱視がきつく全部ボケけて見えます
次の普通運転免許は後4年でアウトですわ
ちなみに、白内障の検査はしましたが、手術することは無いとの診断でした
2時間待っても無罪放免は幸せってことでしょう

2013/03/20 10:40:58

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