+++三十近くになるまで本当の愛を
知らないままの、ある意味ウブな女に
私は哀れを覚えた。
50.深いしわ
何れにしても、女の恋愛感情が勘違
いなのは明らかである。目を覚まさせ
てやるのが年長者としての親切と考
えて、次の日曜日の午後女と話した:
「貴女は男に恋をしているのではな
いよ。父親を慕うような気持ちになっ
ていて、それを恋愛感情と錯覚してい
るんだと思うねーーー」
「貴方は私を愛してくれているわー
ーー。いいえ、愛してくれてなくて
も、とても私を大切にしてくれてる
わ。アパートに独りでいる時、貴方の
ことばかり考えてしまうーーー。とて
も素敵な人よ、貴方は」
これは、なかなか重症である。
「僕はパトロンだ、パトロンに恋をす
るものではないよーーー」
「ーーーー」
女の顔へ笑い掛けながら、私は自分
の薄い白髪を指し、ワレメになった額
の深い皺を見せた。そしてとうとうー
ーー、本当の歳は五十八ではなく六十
七で、もう直ぐ六十八になるのを白状
した:
「貴女が本当の恋をするのに、僕は賛
成だよ。だけどね、父親みたいな歳の
男とではなく、貴女の年齢にもっと相
応しい若い男とすべきだよ」
(比呂よし)
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