+++女は学生時代の話をして、二年生の頃からバレ
エに興味を持ち始めた事、デザインの勉強と平行して
バレエの専門学校に通った話をした。
22.学長の責任
「授業はそっちのけでバレエに熱中よ。 田舎から突然
大都会に出て来た上に、こだわりのない大学の雰囲気
に触れて、ああ此処には自由が溢れているって感じ
たわ。やりたい事をしました」
「楽しそうだったね。やりたい事をやり過ぎたから、
今こうなってしまった訳だ。モーツアルトのパトロン
募集なんて突飛なアイデアは、やっぱり学長の責任
かな?」
「ウフフッーーー」
女はついでに、此処にも自由があると言う風
に体を大きく動かしたから、籐の椅子がギシと鳴っ
た。
「勉強と並行してバレエの学校へも通うのは、学費も
二重に要るから大変だったね。 凄い気力だ。」
「バレエの学費を払うのは親に頼めなかったから、ア
ルバイトの掛け持ちをやりました。 お酒が飲めない
のに、バーテンもやりました。あれは簡単よ。でもオ
ーナーが私に、お客さんの前でもっと笑えと言うのに
は困った。そんなにニタニタ出来なかったわ!」
大きな口を眺めて、笑うと客がびっくりするかも知
れないと心配したが、もう過ぎた過去だし、別の方面
をつついた:
「そうだよね、ニタニタすると顔の笑い皺が増えるか
らね」
「ウッフーーー」
真面目な女の顔を眺めて、接客業には向かないだろ
うと考えた。
「芸術大学というのは、他の大学なんかと違って雰
囲気が自由なのかな。 恋愛もそうなのかい?」
「同級生や先輩・後輩の間で、女の子や男の子の取り
合いや交換はしょっちゅうよ。好意や尊敬、憧れって
いう気持ちさえあれば、それだけで一緒に寝るのに充
分な理由になったわ」
私は「恋愛」について訊ねた筈だのに、「寝る」な
んて言葉をあからさまに女の口が使った。世代の違う
私を少々びっくりさせてやれ、という魂胆があるら
しい。期待に応えて私は素直にびっくりすることに
した:
「へえ、びっくりだ!? それにしても、簡単に寝る
んだねえーーー」
へえ!の加勢を受けて、女は勢いづいた。
「寝るのと恋愛は意味が少し違うけれどーーー。初め
の頃は私も驚いた。そこが高校時代と随分違った
わ」
「そりゃあ、随分違う筈だーーー高校時代から寝てい
ては大変だ。起きて勉強する暇が無くなるもの」
(つづく)
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