自転車で物語散歩

「漱石 マドンナの坂」シリーズ(6) -『こころ』 10- 

2011年12月13日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し

"私(先生)"が見つけた富坂町の下宿は、日清戦争で夫を亡くした未亡人と娘さんが暮らす家である。日清戦争は一八九四年(明治二七年)七月から一八九五年(明治二八年)三月まで。ゆえに、"私(先生)"の話は、一八九六年(明治二九年)のことか。そして、"私(先生)"は未亡人(奥さん)とお嬢さんと同じ屋根の下で睦まじく暮らし始めた。が、その翌年であろうか、"私(先生)"友人のKくんを下宿にひきいれたのだ。ここから、物語が佳境へといたっていく。「私の座敷には控えの間というような四畳が付属していました。玄関を上がって私のいる所へ通ろうとするには、ぜひこの四畳を横切らなければならないのだから、実用の点から見ると、至極不便な室でした。私はここへKを入れたのです。もっとも最初は同じ八畳に二つ机を並べて、次の間を共有にして置く考えだったのですが、Kは狭苦しくっても一人でいる方が好いといって、自分でそっちのほうを択んだのです」というしだいだ。また、"私(先生)"は大学に入ってからすでに三度目の夏を迎えていたので、"私(先生)"とKくんは大学の四年生であったとおもわれる。むろん、二人は東京帝国大学の学生というしだい。ちょっと付け加えると、当時は七月が入学式で、九月が卒業式。よって、Kくんは進級の区切りどきである八月か九月に"私(先生)"の隣りの部屋へ越してきたのであろう。ところが、年頃のお嬢さんが住む家で、むさ苦しいながらも学生が二人、同じ釜の飯を食べるわけですから、なにかと雲行きが怪しくなってくる。「ある日私は神田に用があって、帰りがいつもよりずっと後れました。私は急ぎ足に門前まで来て、格子をがらりと開けました。それと同時に、私はお嬢さんの声を聞いたのです。声は慥かにKの室から出たと思いました。玄関から真直に行けば、茶の間、お嬢さんの部屋と二つ続いていて、・・・」「一週間ばかりして私はまたKとお嬢さんがいっしょに話しているを通り抜けました。その時お嬢さんは私の顔を見るや否や笑い出しました。私はすぐ何がおかしいのかと聞けばよかったのでしょう。それをつい黙って自分の居間まで来てしまったのです。だからKもいつものように、今帰ったかと声を掛ける事ができなくなりました。お嬢さんはすぐ障子を開けて茶の間へ入ったようでした」こんな具合に、"私(先生)"が、Kくんとお嬢さんの和気あいあいに、胸がモヤモヤときてしまった。そして、こんな場面が・・・。「十一月の寒い雨の降る日の事でした。私は外套を濡らして例の通り蒟蒻閻魔(こんにゃくえんま)を抜けて細い坂路を上って宅へ帰りました」まあ、上の文章は、"私(先生)"やKくんのふだんの通学路を示すものだろうか。蒟蒻閻魔(源覚寺)は今でもあり、先に触れている千川通り沿いに位置している。下宿から大学へ行くには、路地を抜けての近道だったのか、それとも富坂の電車道の雑踏を避けての回り道だったのか、どちらにせよ、"私(先生)"とKくんは大学への行き来に源覚寺へ抜ける道を選んでいたようだ。※実は、この"私(先生)"とKくん通学路を探索、散歩したいのだがトンデモない寄り道、回り道が多くなるので今回は省略、別便でふれてみたいとはおもっている。さて、そんな道筋で、寒さに凍えて部屋に帰ってみれば・・・。「Kの室は空虚(がらんどう)でしたけれども、火鉢には継ぎたての火が暖かそうに燃えていました。私も冷たい手を早く赤い炭の上に翳そうと思って、急いで自分の室の仕切りを開けました。すると私の火鉢には冷たい灰が白く残っているだけで、火種さえ尽きているのです。私は急に不愉快になりました」どうやら、お嬢さん、Kくんの火鉢は炭火でホカホカにしたものの、"私(先生)"の部屋は知らんぷりで寒々とした火鉢があるだけ。この待遇の差に、"私(先生)"はがっかり。「私はしばらくそこに坐ったまま書見をしました。宅の中がしんと静まって、誰の話し声も聞こえないうちに、初冬の寒さと佗びしさとが、私の身体に食い込むような感じがしました。私はすぐ書物を伏せて立ち上りました」まあ、それでも武士は食わねど高楊枝を試みるべく、"私(先生)"は平常心を保って書物をひもといた、しかし、心ここにあらず。ついに、いたたまれずに憂さをはらすべくヤケ酒をあおった、・・・いえいえ、外に飛び出した・・・。「私はすぐ書物を伏せて立ち上りました。私はふと賑やかな所へ行きたくなったのです。雨はやっと歇ったようですが、空はまだ冷たい鉛のように重く見えたので、私は用心のため、蛇の目を肩に担いで、・・・」心がザワザワと落ち着かない、それでも沈着して蛇の目傘を手にするあたり、昂れでも冷静でいられる"私(先生)"の性格が出ている。"【漱石・マドンナの坂地図】" に「こんにゃく閻魔」 を追加。■本日もお立ち寄りありがとうございます。※次回は、こんにゃく閻魔前の激戦の予定です。

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