読書日記

『江戸染まぬ』 <旧>読書日記1552 

2024年02月09日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


青山文平『江戸染まぬ』文藝春秋(図書館)

2011年、青山文平名義の「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞を受賞しデビューした著者の『跳ぶ男』(2019/1)と『泳ぐ者」(2021/3)の間の2020年11月に出た短篇集。そして、私にとってまだ未読であった唯一の本であった。

内容は以下の7編で他の青山作品とは趣きが少し異なり、江戸に生きる人々の心根、心意気、想いを描く、つまり話者の気持ちを中心にした短編集になっている。「つぎつぎ小袖」「町になかったもの」「剣士」「いたずら書き」「江戸染まぬ」「日和山」「台」

娘のために親戚につぎつぎ小袖を頼むのだが、いつも一番快く引き受けてくれる一軒に頼めない理由を書く「つぎつぎ小袖」、村から町へと発展する故郷でそれと共に成長してきた紙問屋が判る「町になかったもの」、厄介叔父となった元剣士が道場仲間とともに始末を付けようとする「剣士」嫉妬に燃える殿の近習の苦悩を描く「いたずら書き」、一年限りの武家奉公人が殿様の子を産み相模国に戻される女に付き添っての道中を描く「江戸染まぬ」父の筆禍を受け旗本の次男坊が用心棒に収まる「日和山」、下女奉公にきた清を落とそうとする主人公が祖父に負け、学問吟味に受かろうとして努力し、出仕するという「台」。

いずれも、身分の違いによって生活の違いがあるが、それぞれ生身の人間の感情が巧みに描かれている。著者は短篇を書く時にも長篇を書くときと同様にいくつもの題材を惜しみなく盛り込んで書く、と語っていたことがあったが、本作の短篇はその感触が薄く感じ、そこに当初は違和感を感じたが、全体を読み終えてみるとやはり濃厚な1冊であった。
(2021年8月12日読了)



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