筆さんぽ

妻のために「文字を習う」  

2024年02月09日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書案内

過日、なじみの古書店で、『チーズバーガーズ』(井上一馬訳/文春文庫)も見つけた。アメリカのコラムニスト、ボブ・グリーンのコラムをまとめたもので、このなかに「男のなかの男」と題したコラムがある。これは、五十五才にして文字を習おうとする文盲の配管工の物語である。

余談だが、ボブ・グリーンは、ぼくが若いころに『週刊プレイボーイ』に連載されていたコラムで知った。この当時の『週刊プレイボーイ』は、たんなる「男性の娯楽誌」ではなく、とくにコラムには気合が入っていて、開高健や今東光、野坂昭如らが連載していた。
 
男は、こつこつと自分の仕事をこなし、家も建てた。
「しかし、自分の人生に欠落しているものがいかに大きなものであるかを忘れたことはかたときもない」「いつも、字が読めるようになりたいという切実な思い」があった。
 
何の本だったか、人としての行き方の基準は学問だといい、「基準のない人間は、人から信用されない。美でもない。美でもなければ人から敬愛されない」といった意のことが記してあった。

 会社で全従業員に安全処置に関する筆記試験が課せられ、男は、安全基準は知っていたが、質問を読むことができず、五十五歳にして職を失い、はじめて妻にその理由を打ち明ける。祭日がきても、妻に贈るカードを選ぶことができなかった。「カードを見ても、何と書いてあるのかまるでわからないからです」。

そして、再就職先を見つけ、やはり読み書きができないことは秘密にして仕事を終えた後、夜間週二回ボランティアの個人レッスンを受けてアルファベットの活字体から学ぶことをはじめている。
ボランティアの先生は五十九歳の婦人で、「私はこれまで本から多くの知識や喜びを得てきた」ので、男に「本を読むことの楽しさ教えようと」した。男は、本屋に入って、本を手に取ることもある。先生に教わった知ってる単語が出てくるまで「ページをパラパラめくる」のが喜びである。

「手紙を書けるようになるのが待ち遠しい」と男はいう。
「最初の手紙は妻にあてて書くつもりです。どんなに愛しているかをいってやろうと思います」



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

PR







上部へ