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『北洋船団 女ドクター航海記』読書日記324  

2024年01月25日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記


田村京子『北洋船団 女ドクター航海記』集英社(図書館)

ひょんないきさつで数冊前に読んだ『捕鯨船団 女ドクター南氷洋を行く』が面白かったので、図書館の蔵書を検索して借りだした本である。

1985年12月初版の本で文庫版(1989年3月刊)の内容案内には
海の男たちの中に、女ひとり!酷寒とシケの北洋、初めての女ドクターとしてサケ・マス船団に乗り組んだ著者が綴る笑いと感動の航海奮闘記。日本エッセイストクラブ賞受賞作。(解説・工藤美代子)

本書によると、著者が応募した船医募集の要項は次の様な簡単なものである。
一.船名(ここでは省略させていただく)
一.診療科=全科
一.対象人員=本船内 約210名(実際は250名)
       独航船 約360名(同774名)
       合計  約570名(同1024名)
一.希望医師=全科
一.年齢不問
一.操業海域=北洋漁場
一.待遇=サロン待遇

注目すべきは、診療科と希望医師に記されている全科の文字。これは普通は著者のように「全科に精通し、治療ができること」と解釈するのが当然であろう。何が起こるか判らない海上で孤立し、言わば無医村にいるたった1人の医師である以上、「私は○○科が専門で・・」(だからそれ以外は治療できない)ような人では役に立たない、と思うのが普通では無いだろうか。もちろん、大学の医学部を卒業するためには(歯科を除く)全科を学ぶのだから一応はどんな医師でも当てはまる条件であるとも言えるけれど、「経験豊富な医師」を募集しているはず・・

実はこの条件は「本当の医師免許」を持っていれば(誰でも)良いと言う実に緩い条件なのであった。ただ、当時は「女医では無い」ということは無意識のうちの条件であって、普通なら年齢・性別不問となっているはずがそれすらも書き忘れるほどの男性社会であった。また、待遇のサロン待遇というのはサロン=「高級士官食堂」であって乗員の中で船団長、副船団長、船長、機関長や外国人オブザーバーなどわずか14、5人のメンバーしか居ない最上級待遇である。何はともあれ、船医の希望者が少なく、船医無しでは船団が出港出来ない、という事情もあって著者は船団に乗り込むことができたのである。

ちなみに著者は麻酔科医であって、今でも麻酔科医は軽視されているようだが、本書内で判るけれど、実に有能かつ経験も豊富であった。さらに言えば、船乗り用語で仕事以外の話でコミュニケーションを取る事を「肩ふり」と言うらしいが著者はこの「肩ふり」を積極的に行い、結果的に船団中から信頼と尊敬とを獲得するのであり、まさにうってつけの人材であったと思う。結果としてこの乗船は2年後の捕鯨船団乗船に繋がるのである。

さて、今からおよそ40年前に「初めての女性船医」が誕生したであるけれど、現状はどうなのであろうか?パイオニアの後に続く人はどれぐらいいるのであろうか。
(2024年1月10日読了)



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