読書日記

『エデュケーション』 <旧>読書日記1502 

2023年10月23日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


タラ・ウェストーバー『エデュケーション』早川書房(図書館)

この本について何から書けば良いのか・・邦訳では「エデュケーション」となっているこの本の原題は「Educated A Memoir」であってMemoir(伝記)であり、内容的には著者の自伝である。

で、本書の著者についての解説をそのまま引用すると
1986年、米国アイダホ州生まれ。両親が病院、公立学校、連邦政府を頼らないサバイバリストだったため、自宅で助産師の手を借りて生まれた。9歳まで出生届が提出されていなかった。学校にも行かず、医療機関も受診せずに育った。10代半ばに、大学に進学した兄の影響を受け、大学に通うことを決意。独学で大学資格試験に合格する。2004年、ブリガム・ヤング大学に入学。2008年に同大卒業(文学士)。その後ゲイツ・ケンブリッジ奨学金を授与され、ケンブリッジ大学トリニティカレッジにて哲学で修士号を取得。ハーバード大学に客員研究員として在籍ののち、ケンブリッジに戻り、2014年、歴史学で博士号を取得。2020年よりハーバード大学公共政策大学院 上級研究員。
2018年に発表した本書は主要メディア、ビル・ゲイツ、オバマ夫妻に絶賛され、全米400万部超の記録的ベストセラーとなった。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・ランキングには130週以上ランクインしている。著者は2019年、TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出された。

なお、上の著者紹介には書いて無いが両親はモルモン教徒である。

蛇足であるが、著者の生まれたアイダホ州はアメリカ北西部の州で南北に長く、北はカナダに接し、南はネバダ州とユタ州、西は(アラスカを除けばアメリカ西北の隅の)ワシントン州とオレゴン州、東はモンタナ州とワイオミングに接している。全米で43番目に設立された州(人口密度 6.04人/km²)であり、典型的な田舎の州と見なされている。州で最大の都市は州都のボイズ(人口23万人)で州内では人口10万人以上の都市はボイズだけである。

内容的には、ものすごく簡単・単純に書くと「教育は大事だよ」ということに尽きる。
しかし、「大学は私の人生を変えた」という惹句から連想されるような、直線的に教育の重要性について書かれたものとは言い難い。最終的には著者は大学教育から大きな恩恵を受けているけれども。

父はモルモン教の「サバイバリスト」。ちなみに本文中にはこの単語は出ておらず、核戦争や経済の崩壊といった破滅的な災害やこの世の終わりが来ても自分たちだけで生き延びられるようにする、という精神とその行動が単に記されていて、この一連の行動によってサバイバリストとは何かが判る。しかも、父は自分たちは迫害されているという妄想にも似た信念を持ち、7人の子どもたちのうち下の3人については出生証明書も取ろうとしていない(日本で言う無戸籍者である)。公教育は洗脳であり、迫害のためのスパイを育てるものという信念を持ち、教育は家庭内で必要なことを教えれば充分。そして、家族を精神的に支配している。母は非正規の助産師であり、ホメオパシーや薬草による治療を行う人である。

この父は家族を無償の労働者と捉え、危険な仕事を子供に無理矢理させ、そのために家族は父自身も死んでもおかしく無いような事故により何度も怪我をする。で、治療は母のおこなう薬草治療と神の意志の表れである奇跡しかない。なお、この母の薬草治療が世間に受け、州内でも大きな企業に発展していることが後半で語られている。

出生証明書を持つ次兄は独力で大学に進学し家を出ることに成功するが、後の著者もほぼ独力でSAT(アメリカの大学進学適性試験)で高得点を獲得した上、大学進学後は良き師に会えたこともあるがゲイツ・ケンブリッジ奨学金を得てのイギリス留学、博士号獲得など本人たちの努力も含めて素晴らしき才能と知識への渇望が埋もれていたのである。なにしろ、初等教育すら受けておらず、世の普通の知識も無く、大学では知らない言葉を質問すると「悪ふざけ」または「授業妨害」と見なされて教員はもちろんクラス仲間からも総スカンを食うような状態から始まるのであるから・・ただ、概略はあるけれど、具体的な勉学内容(おそらく一般読者には内容は理解されにくいのであろう)は冗長になることを避ける為らしく書かれていない。

最期に著者は両親・家族とは決別するのであるが、家族への思いはまだ強烈に残っていることが判る。読書中はリースマンの言う「内部指向型」の典型であるという意識が消せなかった。
(2021年4月27日読了)



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

PR







掲載されている画像

上部へ