読書日記

『無暁の鈴(ムギョウノ リン)』 <旧>読書日記1501 

2023年10月21日 ナビトモブログ記事
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西條奈加『無暁の鈴(ムギョウノ リン)』光文社文庫

主人公である無暁、父は宇都宮藩で郡奉行というれっきとした武士の庶子で俗名は垂水行之助、後に義母に疎まれ、寺に出され出家して久斎。さらに寺を飛び出して自ら名乗ったのが無暁である。

この無暁の生涯を大きく4つの時期に分けて描くのが本書である。まずは導入部でもある久斎の頃。兄弟子たちにいじめられる中で水汲みに出かける沢で出会う村の娘・しのとのひとときが安らぎであったが、尊敬する住持利惠の手ひどい裏切りにあって寺を飛び出す。

戻る所を失って放浪する久斎は盗みで食い繋ぐ万吉と出会い無暁と名乗る。万吉と無暁は共に13歳であったが無暁は体が大きく大人びていたが万吉は体が小さく子ども子供している。しかし、生き延びる知恵は万吉が勝ってともに江戸をめざすことになる。江戸に着いた2人はひょんなことからヤクザの沖辰一家の世話になり時が経つうちに無暁は「坊主くずれの無暁」という二つ名を持つようになる。

5年が経ち、腕っ節が強い無暁と口のうまい万吉は沖辰一家の中軸となっていくが、新興のやくざ薊野一家との争いが起こり、その中で万吉は死に無暁は出入りの大喧嘩の最中で何人か人を殺し、八丈島への島流しとなる。

3つめの段階は八丈島での22年間の流人生活が描かれる。始めは喰うや喰わずの生活、と言っても島民たちの生活も苦しく、無暁も坊主のまねごとをしてようやく暮らしが回り始める。島が蝗害に見舞われると無暁は思いあまって父に連絡を取ると父は援助の物資を送ってくれる様になり、さらには赦免を求めて嘆願を始める。

そして、赦免を受けて江戸に戻った無暁は出羽三山に赴き、ここであらためて仏道修行に励むことになる。羽黒山は山伏の本拠でもあり、無暁は仏道の真理を求めて山伏修行を励む。やがてはそれが千日行へと繋がりこれを成し遂げた無暁は多くの人に信仰されるが、その信仰に促されるかのように無暁は即身成仏する。

とまあ波瀾万丈の生涯であり、一気に読ませる勢いとうまさがあるけれど・・仏道の目的であったり修行の意味であったり、無暁の心は久斎の時から変わらずに問い続ける。これが話の一つの芯であるが、しかし、正直に言うと、作品を通しての作者の答えはやや薄っぺらに感じる。

万吉との出会いと別れ、島での出会いと別れ、羽黒山での出会いと別れなど要所で良い人と無暁は出会うのであるが、ある意味ご都合主義とも言える話の展開がそれらによって支えられる構造が見えてしまう。すなおに話の流れに乗れないのは私が年を取ったせいであろうか。
(2021年4月24日読了)



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