読書日記

『本のエンドロール』 読書日記210 

2023年06月08日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

安藤祐介『本のエンドロール』講談社(図書館)

『崖っぷち芸人、会社を救う』を読んで、ちょっと興味が湧いた作家で、図書館に在庫していたので借りて読んだ。

単行本の広告文だと

彼らは走り続ける。機械は動き続ける。電子化の波が押し寄せ、斜陽産業と言われようとも、この世に本がある限り。印刷会社の営業・浦本は就職説明会で言う。「印刷会社はメーカーです」営業、工場作業員、DTPオペレーター、デザイナー、電子書籍製作チーム。構想三年、印刷会社全面協力のもと、奥付に載らない本造りの裏方たちを描く、安藤祐介会心のお仕事小説。

大反響5刷! あなたたちがいるから本が読める――。
作家が物語を紡ぐ。編集者が編み、印刷営業が伴走する。完成した作品はオペレーターにレイアウトされ、版に刷られ、紙に転写される。製本所が紙の束を綴じ、"本"となって書店に搬入され、ようやく、私たちに届く。廃れゆく業界で、自分に一体何ができるのか。印刷会社の営業・浦本は、本の「可能性」を信じ続けることで苦難を乗り越えていく。奥付に載らない、裏方たちの活躍と葛藤を描く、感動長編。

となっているが、文庫化した時の文庫の広告文は

本の奥付に載っている会社名の後ろには、悩みながらも自分の仕事に誇りを持ち、本を造る「人」たちがいる。豊澄印刷の営業・浦本も、日々トラブルに見舞われながら「印刷会社はメーカーだ」という矜持を持ち、本造りに携わる一人。本を愛する人たちの熱い支持を集めた物語が、特別掌編『本は必需品』を加え、待望の文庫化!

と変わっている。

上の二つの内容紹介でほぼ言い尽くされている様に思えるのであるが、今までの「本づくり」の物語では作家と編集者が中心であり、それを物理的に本という製品にするまでを表現したのは初めてかもしれない。作中にも出てくるが、作家がこの意味での本づくりの現場を見学するのは珍しいことであろう。全体は5章に分かれ、章名はその解きに作る本の題名となっている。
第1章『スロウスタート』では「本の仕様」(紙の素材、カバー画、装幀など)と出版社の作家への期待度
第2章『長篠の風』で造本設計とその具体化、豪華すぎる造本は部数と定価の上昇を招く
第3章『ペーパーバック・ライター』で安価本の製作とそれに使う最新式の(製本までできる)印刷機
第4章『サイバー・ドラッグ』では電子出版
第5章『本の宝箱』では作家の装幀に関するこだわりと作者であるとの矜持と製作者の葛藤
という様な話が描かれる。

本の価値はその内容にある、というのは確かなことであろう。いわゆる電子書籍はおそらくその延長線上にある思想で「内容が読めれば良い」という考え方であろう。だが、本書では物理的存在としての本にこだわる人たちの話だ。私自身も「青空文庫」で本を読むことはあるが、感じたことは短篇なら読めるが長篇は読みにくいということだ。逆に私と同年輩の友人で自分で本を電子化し、30インチのディスプレイで本を読むという人物がいるが、その話に刺激されて、紙では読みきれなかった論文(別の友人の大学紀要の抜き刷り)を拡大して読んで見たらなるほど読めた、という経験がある。

つまり、紙の本で無ければならない、とは思わないけれど実際には電子本を買って読んだことはない。これは長年の習慣の所為なのか?それにしても文庫版にのみある『本は必需品』の内容を知りたい(最近の講談社文庫は本をフィルム包装しているので内容を見られない)。立ち読みできる機会はないだろうか?
(2023年5月22日読了)



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