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『彼女たちの部屋』 <旧>読書日記1390 

2023年06月07日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記

レティシア・コロンバニ『彼女たちの部屋』早川書房(図書館)

フェニズム小説という分野があることを本書を読んで、より正確に言うと、本書の訳者後書きと巻末の解説を読んで知った。でも、当たり前のことをわざわざ「フェニズム」と言う必要があるかどうか。つまり、当たり前がまだまだ当たり前ではないからこういうジャンル分けが出てくるのかもしれない。

著者はもともとフランスの映画監督・脚本家・女優であり、40歳の時に転機を迎え1年間の休暇をとって執筆したのが『三つ編み』で本作は2作目となる。

話は現代とおよそ百年前とを交互に描く。現代では弁護士のソレーヌが弁護士として成功していたのに、顧客の自殺に直面し燃え尽き症候群に陥る。何もやる気が起きない彼女に精神科医かボランティア活動を勧める。そこで出会ったのが「代書人」の仕事。

ボランティァを募集していたレイモンドにあてがわれたのは「女性会館」と呼ばれる保護施設で週1回木曜日にソレーヌはそこに出かけることになる。そして出会った女性たち。

一方、百年前の話の主人公はブランシュ・ペイロン、夫のアルバン・ペイロンと2人合わせてペイロン組と呼ばれた彼女は救世軍(*)の将校である。彼女は不屈の意志を持ち、世の貧困などと闘う内に虐げられた女性のための収容施設(シォルター)が必要であると気づき、「女性会館」を作るために奮闘する。ちなみに彼女が生きたのは女性は無能力者であるとされていた時代。銀行に口座を開くことも出来ず、もちろん女性参政権も無い。

ここで特筆すべきことは設立当初から救世軍は男女同権と考え、女性差別が無かった(らしい)ということ。本書ではさらっと書かれているが夫アルバンは社会的にも妻のブランシュを支え続け、共同して育児を行い、2人の3男3女の子どもたちもすべて救世軍に加わっている。

短いぶつ切りとも言える文章が積み重ねられ、現代と百年前が繋がっていき、女性を巡る状況は変わっていないことが本書によって示される。なお、ブランシュ(1867〜1933)とアルバン(1870〜1944)は実在の人物で2人ともレジオン・ドヌール勲章を授けられている。

年末になると街で「社会鍋」という募金活動を行う社会福祉団体として知られる「救世軍」が宗教法人でもあることは実を言うと本書を読むまで知らなかった。

(*)救世軍とは1865年イギリスのウイリアム・ブースと妻のキャサリンによって創設されたキリスト教プロテスタントの一派、および慈善団体。 世界131の国と地域で伝道事業、社会福祉事業、教育事業、医療事業を推進する。軍隊を模した組織が特徴で、クリスマスを中心とした年末に行われる募金活動「社会鍋」で有名。日本では1895年に伝来し、日本福音同盟に加盟している。
(2020年11月12日読了)



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