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読書日記
『天地に燦たり』 読書日記209
2023年06月06日
テーマ:読書日記
川越宗一『天地に燦たり』文春文庫
冒頭の章「禽獣」では島津家の重臣である大野七郎久高の戦闘シーンが描かれていて、大野久高が主人公であるかと思わせる。しかし、次章の「異類」では白丁身分の朝鮮人の明鐘(メイショウ)が学問を志すくだりが描かれており、続く章「をなり神の島」琉球人の商人である真市(マイチ)が朝鮮での商売を始める場面である。
つまりは、この小説は大野久高・明鐘・真市の3人が絡む物語であるようだ。
広告文によれば
日本、朝鮮、琉球。東アジア三か国を舞台に、侵略する者、される者それぞれの矜持を見事に描き切った歴史小説。松本清張賞受賞作。
ということで、時代で言えば、16世紀の末近く、豊臣秀吉が九州征伐(1587)を行い、さらに天下統一をなしとげて文禄・慶長の役(1592〜98)で朝鮮出兵を行ったころから島津氏による琉球侵攻(1609)までの時期のこと。
文章はこなれていない感じだし、礼だの儒学(というより朱子学)だのの理想を説くがそれは私にとっては(当時の朝鮮・中国における儒学の実情(*)から見て)シラけるものでしかないが、それでも骨太の小説であった。
著者は1978年鹿児島県生まれ、大阪府出身。龍谷大学文学部史学科中退。2018年『天地に燦たり』で第25回松本清張賞を受賞しデビュー。19年8月刊行の『熱源』で第9回本屋が選ぶ時代小説大賞、第162回直木賞を受賞する。うーん、そういうことなら文章については目をつぶることも出来そうだし、直木賞作品もちょっと読んで見たいかなと思う。
(*)この秀吉による朝鮮出兵に対応したことが明の国力を衰退させたと言える。こののち17世紀の前半、中国は明朝(漢人王朝)から清朝(女真人王朝)へと移り変わる時代であり、万里の長城の東端である山海関を挟んでの攻防が盛んであった。朝鮮では1616年に後金国(後の清朝)の支配下に入るが「儒学の正統は我にあり」とする意識が大きかった。
なお、朱子学はもともと形式重視の傾向が強く、空理空論に走りやすい性格を持つが、後金国が山海関を攻めるのに大砲を用いたとき、明朝朝廷では「志操堅固であれば大砲の弾などどれだけ恐れるべきであろうか」という精神論が盛んであった。
(2023年5月21日読了)
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